日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『和田慎二傑作選 砂時計は血の匂い』
『和田慎二傑作選 砂時計は血の匂い』
和田慎二 秋田書店 ¥2,100+税
(2017年4月14日発売)
『超少女明日香』『スケバン刑事』などを生み出した和田慎二が亡くなったのは、6年前。
2011年7月5日、虚血性心疾患による急逝であった。
61歳での死は、あまりにも早すぎたといえよう。
その和田慎二が、1970年代に少女マンガ誌「別冊マーガレット」に発表した、ミステリコミックが今回『和田慎二傑作選 砂時計は血の匂い』として1冊にまとまった。
収録されているのは、次の3作品である。
「愛と死の砂時計」(「別冊マーガレット」8月号掲載/1973年)
「オレンジは血の匂い」(「別冊マーガレット」12月号掲載/1974年)
「バラの追跡」(「別冊マーガレット」5月号掲載/1974年)
このうち「愛と死の砂時計」、「オレンジは血の匂い」には『スケバン刑事』で麻宮サキのパートナーとして活躍した、私立探偵・神恭一郎が登場する。
また、「バラの追跡」は、『スケバン刑事』で神の助手を務める海堂美尾の前日譚的な作品である。
この3作品に加えて、熱狂的な和田慎二ファンの森勇気との合作マンガ「パニック・イン・ワンダーランド」(1985年 「マンガ・ファンロード」1号掲載)や、市東亮子や新谷かおるらによるトリビュートイラスト、さらには『スケバン刑事』と同時期に同じ雑誌(「花とゆめ」)で『ガラスの仮面』を連載していた、美内すずえへのインタビューなども掲載されているので、和田慎二ファン必読の1冊といえよう。
「愛と死の砂時計」は、無実の罪で死刑を宣告された青年・保本(やすもと)を救うべく、神恭一郎が保本の恋人・沓子(ようこ)とともに真犯人探しに奔走するというもの。
死刑執行まで1カ月――という状況でのタイムリミット・サスペンスである。
「愛と死の砂時計」は、最初はラストで「犯人はおまえだ!」と指摘するパターンであったという。
しかし、編集者から「“犯人当て”だと犯人がわかったら、読み直してくれない。読み直してくれたほうがうれしくない?」との指摘を受けて、読者に対しては、犯人が途中で明かされる形式に変更されている。
この“読者に対しては”という点が、非常によい効果を出していて、読者は、神や沓子が、犯人に欺かれているさまを見せつけられ、ジリジリさせられるのだ。
そして、それだけに結末でのカタルシスも、大きくなるのである。
その後、和田はこの手法を、自らの作劇法として確立させた感がある。
「オレンジは血の匂い」も、犯人を途中で明らかにしたうえで、物語を盛りあげていくし、「バラの追跡」は、美尾と父親の殺害犯である西園寺京吾との対決(と、戦いにともない湧きあがる恋愛感情)を描いたものである。
1970年代の時点で、「犯人はおまえだ!」で終わらないミステリコミックを模索していた和田の作品には(絵柄などはやむをえないとして)、現代の視点で読んでも新しい発見があるはずである。
昔を懐かしむファンだけでなく、和田慎二を読むのはこれが初めて、という読者にも、ぜひ手に取っていただきたい作品集である。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2017本格ミステリ・ベスト10」(原書房)にてミステリコミックの年間レビューを担当。