『世界の終わりのはじまりに』
田中慧 花とゆめCOMICS \429+税
(2014年9月5日発売)
ホラーエンタメのジャンルでは不滅の人気を誇るゾンビものだが、こちらは「正当派少女漫画×ゾンビもの」という組み合わせが異色かつ新鮮だ。
舞台は北海道。1匹の猿が持ち込んだ謎のウイルスによって、人々が次々とゾンビと化してゆき、ついに北海道閉鎖の緊急事態に――ってなパニックホラーお決まりの設定も、まさかのデング熱騒動の状況下に読むと、妙にリアルだからおもしろい。
幼なじみの高校生カップルを主人公にした第1話は、よくも悪くも純愛少女漫画の王道的結末に着地するが、物語はさらに避難所をメイン舞台に、老若男女さまざまな人物を交えながら描かれてゆく。
閉鎖された北の土地の避難所での生活も4年目を迎え、当初のゾンビへの恐怖とはまた異なる問題が勃発してくる。そのあたりのくだりは、東日本大震災以降の日本の現実ともダブり、『世界の終わりのはじまりに』というタイトルもじつに意味深に思えてくる。そんな絶望的な状況下で衝突しながらも精一杯今を生きようとする人々の姿が、切なくも清々しい。
そもそも、ゾンビものの何がかくも人々の心を捉えるのかといえば、それはゾンビ自体の魅力というよりは、切迫した状況下で本性(家族愛や絆、生への執着や喜び、あるいは人間の醜さや恐ろしさ)をあらわにした人間の生々しいドラマ部分であり、それらと人間性を喪失したゾンビとの対比の妙だったりする。そういう意味でも、本作は意外や真っ当なゾンビものとして楽しめる。
ラストで描かれる「希望」は、これまでのゾンビものの中でも超画期的!
少女マンガに抵抗のある男性陣も、ゾンビファンなら一読の価値ありですゾ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69