日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『社畜と幽霊』
『社畜と幽霊』 第2巻
日日ねるこ 集英社 ¥600+税
(2017年5月19日発売)
人間にとって、“感情が大きく動く”というのは、それが“うれしい”“楽しい”というポジティブなものであれ、“哀しい”“怖い”というネガティブなものであれ、じつはたいへん、エネルギーを使う行動なのだ。
限界まで疲れてくると、往々にして“感情”に回す体力が真っ先に枯渇する。
ブラック企業の話題が出るたび「なぜ逃げない」「なぜ抗議しない」「なぜ○○」といった言葉がかわされるが、人間、降って湧いた理不尽に対し怒ったり抵抗したり疑問を抱いたりというのは、それこそたいへんに体力のいる行いなのであって、そういう体力なんてまるで残らないほどに働かせるからこそ、ブラック企業のブラック企業たるゆえんなのだ……と思う。
前置きが長くなった。『社畜と幽霊』は、そんなブラック企業を舞台にした作品だ。
とある会社に巣くう正統派の黒髪幽霊。
彼女はあの手この手で、社員の背山を脅かそうとするのだが、件の会社は超ブラック企業。
残業続きの背山には、幽霊を怖がっている暇などあるわけがないのだった。
そんな理由で、幽霊はあの手この手の心霊現象で彼を怖がらせようと……というか、かまってもらおうとするのだが、激務に追われる背山はそれらいっさいを即物的に切り捨てていく。
そんな一方通行な関係を描くホラーに見せかけたコメディ……なんだろうけど、幽霊への恐怖さえすり減るほどの激務って、それ自体がホラーだよ! というマンガである。
ああブラック企業というのはこれほどまでに人間を破壊するのか。
人は定時で帰るべきだし、職場に幽霊が出たら怖がるべきなのだ。
断固、許すまじ、ブラック企業!
<文・前島賢>
82年生、SF、ライトノベルを中心に活動するライター。朝日新聞にて書評欄「エンタメ for around 20」を担当中。
Twitter:@maezimas