日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『スペクトラルウィザード』
『スペクトラルウィザード』
模造クリスタル イースト・プレス ¥800+税
(2017年8月11日発売)
独特な感性を持つために周囲とうまく折り合いがつけられない少女の不安と孤独を描いた、『金魚王国の崩壊』。
WEBマンガ界隈では名作と名高い作品だが、その著者である模造クリスタルが、同人誌で発表していた作品に加筆修正・書き下ろしを加えた作品集が本作『スペクトラルウィザード』だ。
主人公となるのはタイトルにもなっている、魔術師の少女・スペクトラルウィザード。
もともとは魔術師ギルドに所属し、ほかの魔術師たちとともに暮らしていた彼女だが、そのギルドがテロ組織と認定されてしまい解散することに。
残された魔術師たちは指名手配され、スペクトラルも逃亡生活を送ることに。
しかし、このスペクトラル、じつはものすごく強い。
身体をゴーストにすることで、どんな攻撃もあたらないし、どんなところにも自在に侵入できるので、だれも彼女を捕まえることができない。
だからごく普通に部屋を借りているし、買い物にも行けるし、敵組織である騎士団の少女に電話して呼び出すことだってできる。その暮らしはとても逃亡生活中とは思えない。
けれど、そんな彼女でも耐えられないのが、ずっとひとりでいること。
さみしさを紛らわそうとぬいぐるみを買ったりするけれど、ぬいぐるみは何もしゃべってくれず、スーパーで昔よく食べていた缶詰を見つけたら、ギルドの仲間のことを思い出したりと、毎日どこか憂鬱で物悲しい気持ちになることばかり。
ときには、仲間の魔術師と再会することもあるが、ほかの魔術師は世界を破滅に導こうとするばかりで、根がいい子のスペクトラルは仲間たちの行動を邪魔しなければならず……。
普通の人間とはともに暮らせず、仲間ともいっしょにいられない。
かわいらしいタッチのイラストとは裏腹に、そんな少女のやりきれない思いが、じんわりと読者の心に刺さる1冊だ。
<文・犬紳士>
養蜂家。好きな野鳥はメジロ。
Twitter:@gentledog