『ジュウマン』第1巻
羽生生純 KADOKAWA/エンターブレイン \680+税
(2014年9月24日発売)
2年前、長野県南部に突然出現して多くの人の命を奪った謎の巨大物体「マンジュウ」。この真っ白な物体に立ち向かうのは、なぜか巨人化してそのマンジュウを食べんとする、5人の突然変異人間たちだった!
……と、あらすじっぽいものを書いてみても、このマンガの濃密すぎる内容を伝えられた気がさっぱりしないのが、すばらしい。
松尾スズキ監督の手で映画化された『恋の門』といい、話題をかっさらった『俺は生ガンダム』といい、キャリアの中に「異色作じゃないもの」が1本もない作者の最新作なんだから、そんなことは織り込み済みだ!
広い意味での「大災害もの」ジャンルと思われる本作。個人的には長野県に現れた「マンジュウ」なる現象のユニークすぎる存在感がとにかくたまらない。
スティーブン・キングの小説『アンダー・ザ・ドーム』の「ドーム」や、諸星大二郎の『生物都市』の系譜にある「独自ルールで周囲の人々をゆっくり追い込んでいくなにか」ではあるのだが、あの見た目で「マンジュウ」はないだろう!
いや、本当にこんなのが出てきたら、我々はつい「マンジュウ」なんて言っちゃうんだろうな。でもって、けっこうこのマンガみたいに間の抜けたリアクションを取りまくるんだろうなぁ……的な、リアリズムの妙とでも言いますか。
この1巻でおもに描かれているのは、そんなマンジュウの登場と時を同じくして、なぜか体の巨大化現象が起こってしまった「選ばれし者」5名それぞれの導入のドラマ。
登場人物ほぼ全員が、羽生生作品ならではの“変人”っぷりを遺憾なく発揮しているため、全体の構成はシリアスでありつつも、巨大ヒーロー化した主人公青年の衣装がとれて、巨大なチンポがむきだしになるくだりなど、とにかく全体的に“けったい”な仕上がりである。
長野県南部にこのあと何が起こるのか、いや、そもそも長野に何が起こってるのかもいまだによくわからないが、マンガ文体そのものがすでに発酵している本作においては、その「わからない」こそが“うまみ”でもある、と記しておきたい。
早く続きが読みたい!
<文・大西祥平>
マンガ評論家、ライター、マンガ原作者。著書に『小池一夫伝説』(洋泉社)、シリーズ監修に『ジョージ秋山捨てがたき選集』(青林工藝舎)など。「映画秘宝」(洋泉社)誌ほかで連載中。