日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『デンキ -科學処やなぎや-』
『デンキ -科學処やなぎや-』
鶴田謙二 復刊ドットコム ¥2800+税
(2017年10月28日発売)
理知とノスタルジーを絶妙にブレンドした論理的想像力で、読者をしみじみとしたSFロマンへいざなう鶴田謙二先生。その作品のなかで書籍化の望みが薄いと思われていたタイトルが、さる10月に復刊ドットコムより刊行され、ファンを驚かせた。
形式はマンガではなく、フルカラー見開きイラストの合間に文章ページを挟んだ、読みもの画集である。
ぜんざいや餡蜜を出すのは「甘味処」。
おそばを出すのは「そば処」。
ならば、流しのお店で科学技術の恩恵を提供してまわる「科學処(かがくどころ)」があったら……?
という奇想天外なアイデアに立ち、謎の装置が満載の屋台を引いて全国を旅するマッドサイエンティスト・八甲田柳之介と、独自の算術を駆使して彼をアシストする看板娘・四万十川揚々の活躍を、おもに彼らに助けられる人々の視点で紹介する和風SFとなっている。
干ばつに苦しむ村人や、無人島でサバイバルしていた漂流者が、シビアな状況なのにどこかのんきな調子で眺める「やなぎや」コンビの行動は興味深さいっぱい。
テキストを手がかりに「この2人にどんな背景があるのだろう? ほかにはどんな難問を解決してきたのだろう? どうも時空をこえて旅してるようだな……?」と考えながらイラストをじっと眺めていると、作品世界の奥行きに惹き込まれてワクワク感に包まれること必至だ。
さて、本作は1998年から約2年間、富士見書房の「ドラゴンマガジン」誌にて「幻燈堂」というメインタイトルで見開きのショートページ構成で連載されていたものである。
そこに、1991年に同雑誌で発表されたコンセプトアート「展望亭の冒険」を加えて1冊にまとめたのが今回出た本だ。
当時は、陸・海・空それぞれに科學処を設定して大きな3部作にするという構想が存在していたそうで、飛行船居酒屋「展望亭」が空の科學処、人力移動科学屋台「やなぎや」が陸の科學処という位置づけだったらしい(本作あとがき参照)。
結局構想は完全には形にならなかったが、残る“海の科學処 ”の設定は近年単行本が出ているマンガ『冒険エレキテ島』で復活しており、今後の展開に要注目だ。
ちなみに、それらの作品リンクのなかには既存の完結短編も巻きこんであり、「展望亭」には『Spirit of Wonder』収録作に出てくるチャイナさんや花屋のリリーも関連づけられている。
この画集をとっかかりにあらためて既存作も読み返し、可能性を示された鶴田ユニバースへ思いを馳せてみてほしい。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム35年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論 増補改訂版』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7