『BECK』第5巻
ハロルド作石 講談社 \505+税
今から7年前の2007年10月22日、X JAPANの公式サイトにて新曲「I.V.」の公開PV撮影が行われることが発表された。それまで噂レベルだったX JAPAN再結成が、現実のものとなったのだ。
X JAPANが解散したのは97年の大晦日。それから10年間はギタリストであるHIDEの死やボーカルのToshlの洗脳騒動など、暗いニュースが続いていただけに、奇跡の再結成の報にファンは狂喜乱舞した。
以降、断続的な活動を続けているX JAPANは、この2014年10月1日に4年ぶりの国内ワンマンを日産スタジアムで行い、11日(日本時間12日)には、マディソン・スクエア・ガーデンでの公演を成功させている。
そのX JAPANのリーダーといえば、ご存じYOSHIKI。ミュージシャンとしてマルチな才能を披露するのみならず、プロデューサーとしても手腕を発揮。
まだハタチそこそこだった86年に自主レーベルのエクスタシーレコードを設立。X(当時の名義)に続き、LUNA SEAやGLAYらがエクスタシーレコードから次々にインディーズデビューを飾り、メジャーへの足掛かりにしていったのだ。
ロックバンドマンガの最高峰『BECK』には、YOSHIKIをモデルにしたキャラクター“蘭”が登場する。
蘭は主人公のコユキが所属するバンド“BECK”のライバル的存在である“ベル・アーム”のプロデュースを手掛ける男であり、強大な権力を誇っている。この2バンド、ミクスチャー系とヴィジュアル系であり、そもそも音楽性もファン層も異なると思われるが、米オルタナ界の大物“The Dying Breed(通称・ダイブリ)”の来日公演で勃発したひと悶着をきっかけに、蘭はBECKの活動を妨害し始める。
この蘭という男、とにかく嫌なヤツなのだが、ある種わかりやすい性格で、人間味にあふれているという見方もできる。だってダイブリの事件に関しては、あまりにも理不尽であり、キレるのも無理はないもの。
それなのに、徹頭徹尾ステレオタイプの悪人に描かれているため、X JAPANのファンが読んだら、もやもやした気分になることうけ合いである。
ダイブリ事件が収録された『BECK』第5巻が発売されてから14年。いまやX JAPANは世界的な知名度を誇り、その楽曲は欧米のバンドに好んでカバーされている。
X JAPANのMSG公演に熱狂するニューヨークの観客をながめながら、蘭がニヤリと笑う姿を妄想しつつ、5巻を読み返してみるのも一興だ。
<文・奈良崎コロスケ>
68年生まれ。東京都立川市出身。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。
「ドキュメント毎日くん」