『ラーメン大好き小泉さん』第1巻
鳴見なる 竹書房 \580+税
(2014年10月7日発売)
題名はやっぱり、藤子不二雄作品に登場する名物キャラ、ラーメン大好き小池さんにかけてるのか……というのは置いといて。
本作は、超クールで孤高な美少女女子高生・小泉さんが校内・校外で豪快にラーメンを食べまくるマンガである。
小泉さんはラーメンが大好き。ひとりで堂々と某ドカ盛りラーメン店に入っては、流暢に「ぶたダブルヤサイマシマシニンニクアブラカラメ」とコールし、試験直前でも気になるご当地ラーメンがあれば即座に東京から東北まで旅に出る。
彼女は誰かとつるむ事もなく、ただひたすらひとりでラーメン道を突き進む。
作品の視点はおもに、そんな小泉さんと友達になりたい同級生の悠ちゃんが担当している。この悠ちゃんの役割は2つある。
まず、ラーメン素人として小泉さんの食べっぷりを見て驚いたり、知らなかったメニューやお店を学んでいく役目。
そしてもうひとつが、「美少女・小泉さん」に見惚れる役目だ。うっとりと。
小泉さんが作品世界内で外見的にかわいいいのは、ほかの登場人物の反応で何度もうかがえる。そこを表面的に読むと「こんなかわいい“のに”ガツガツとラーメンを食べるギャップがおもしろいんだな」と思ったりするかもしれない。
だが、ちょっと待った。かわいい“から”こそ食べっぷりが魅力的になる掛け算なんじゃないか?
小泉さんがラーメンを食べる場面……がつがつ、ずるずると野趣あふれるすすりかたから始まり、食べ終わりには上気して汗ばんだ顔がゆるみ恍惚の吐息を漏らすまでの流れ。ラーメンで身も心も悦んでいるのが伝わってくる。なんというか、たいへんなエロティシズムがある。
そういう色気をつけるならば、ベースになる外見はより美しく描かれたほうが読者を興奮させる効果は高くなろう。
本作は、ラーメンがどこまで少女の色香を引き出せるかに挑んだマンガといえる。
それをふまえて作品の題名を確認しよう。
「小泉さんの大好きなラーメン」ではない。『ラーメン大好き小泉さん』、あくまで重心は小泉さんにかかっているのだ。
「食」がエロいという発想は、ちょっと前なら『天才料理人 味の助』、最近なら『食戟のソーマ』などの作品を読めば、わかりやすいだろう。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。プリキュアはSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7