ぶぅ
ラズウェル細木 講談社 ¥605
(2014年4月23日発売)
前作『う』では、ひたすらウナギを食べ続けるだけの鰻料理マンガを描いたラズウェル細木の最新作。
昨今の価格高騰で「ウナギなんて高級品、とても手が出ないよぉ~」と嘆くわれわれ庶民の心情をおもんぱかってくれたのか、今度のテーマはズバリ「豚肉」。ひたすら豚肉料理を食べまくる、ポーク100%の豚肉料理マンガだ!
とかく日本では「牛高豚低」とでも言うべきか、豚肉より牛肉をありがたがる「牛肉信仰」の風潮が強い。
一方の豚肉料理はといえば、カツ丼、ショウガ焼き、カツサンド、ミミガー……と、なるほど確かに高級料理ではないものの、旨さと安さを兼ね備えた「家庭料理の王様」といっていい。
そして日常的で家庭的だからこそ、料理そのものの味と同様に、「誰と食べるか」も重要になってくる。
売れない役者の主人公・猪部勝太は、バツイチで月に二回しか娘に会うことができない。それまで食事に興味のなかった勝太が、豚料理を介して娘や元嫁、役者仲間たちと交流し、人間としても、役者としても成長していく。
従来のラズウェル細木作品(『酒のほそ道』『う』など)と同様、基本的には一話完結の読切スタイルだが、全編を通じて勝太のサクセスストーリーが描かれるのも本作の大きな特徴。豚が取り持つ良縁・奇縁を味わいながら、勝太の成長していく姿を見守りたい。
ちなみに、ストーリーが進むにつれて、勝太の目の下のクマや、頬のコケが消えていく。
そうや って、豚料理によって健康状態が改善したことが示唆されるのだが、物語のどのタイミングで描き方が変わるのかに着目して再読すると、さらに味わい深いかも!?
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。