『水色の部屋』上巻
ゴトウユキコ 太田出版 \800+税
(2014年12月4日発売)
畳の上にでっぷりとした猫と横たわる穏やかな寝顔の少女に、アラーキー(荒木経惟)の力強くもあたたか味のある題字がズシンと乗る表紙。
ページを繰って最初に飛び込んでくるのは鮮烈すぎる文字列。涙をためる女性の目、重なりあう男女の頭部、太もも、二の腕、尻、胸……。
読み手をイッキに作品内に取りこんでしまう、すさまじい冒頭だ。
ゴトウユキコといえばヒロインが“セクシーな仔牛”という衝撃作『ウシハル』や、中学男子が見せる切実なリビドーを活写した『R-中学生』で青年誌に新風を送りこんできた気鋭の作家だ。
ところがこの『水色の部屋』はこれまでのハツラツとした思春期エロ路線から一変、ドロッとした夏の汗が首筋に張り付いているような、淫靡な世界観が構築されている。
高校2年生の柄本正文は母親の沙帆(サホ)と2人暮らし。正文は幼少時に自宅で目撃した暴力的な出来事がトラウマとなり、実の母であるサホに対して、どうにもならない想いを抱きながら生活していた。
サホはまだ30代前半の若く美しい女性。彼女に言い寄る男は当然のようにいる。
しかし、母親をとられるという以上の感情が正文を支配する。キャミソールからのぞく胸、洗濯かごに放り込まれた下着、ワンピースに透けるボディライン、そして何度も見てしまう“水色の部屋”の夢。