『天の血脈』第5巻
安彦良和 講談社 \629+税
(2015年2月23日発売)
『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイン・作画監督として知られ、今年2015年公開のアニメ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の総監督としても注目を集めている安彦良和。
しかし、安彦をアニメーターとしてのみ認識してしまうのは非常にもったいない。
同様に彼のマンガを、「アニメ作家が描くマンガ」と見なすこともそうだ。『虹色のトロツキー』と『王道の狗』に続く近代史3部作『天の血脈』は、漫画家・安彦良和の実力を存分に見せつける1作と言える。
昭和初期の満州(ノモンハン事件)を舞台とした『虹色のトロツキー』と、明治中期から末期(秩父事件・日清戦争)を描いた『王道の狗』のあいだの時代、明治末期を駆け抜ける『天の血脈』の最新5巻で描かれるのは、日露戦争終結後の1905年末から1906年初頭。
歴史的な事件こそ起こらないが、それゆえにこそ光るのは、主人公・安積の物語とシンクロする夢として描かれる、4世紀、神功皇后をめぐるパートの冒険。ここでは、資料だけでははっきりとしないその時代を想像し、夢というフィクションを用いることで、天皇をめぐる血脈の問題へと果敢に踏みこんでいく――。
なお、安彦の歴史マンガというと、巻末につく専門家による解説や対談も魅力のひとつだが、本巻にも安彦と専門家の対談が掲載されている。
相手は、2014年末に急逝した評論家・歴史家の松本健一。マンガ本編とあわせてかみしめておきたい対話だ。
<文・高瀬司>
批評ZINE「アニメルカ」「マンガルカ」主宰。ほかアニメ・マンガ論を「ユリイカ」などに寄稿。インタビュー企画では「Drawing with Wacom」などを担当。
Twitter:@ill_critique
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