『講談社漫画文庫 魔界転生』
山田風太郎(作) 石川賢(画) 講談社 \880+税
1612(慶長17)年旧暦4月13日、関門海峡にある小島・船島で宮本武蔵と佐々木小次郎の決闘が行われた。
世にいう「巌流島の決闘」にちなんで制定されたのがこの「決闘の日」。
二天一流を編み出した稀代の剣豪、二刀流の武蔵と長さ3尺(約1メートル)に及ぶ備前長船長光、通称「物干し竿」を操る佐々木小次郎という2人のキャラクター性もあいまって、巌流島の決闘はこれまで何度も創作のモチーフにとりあげられてきた。
とくに宮本武蔵は、登場する作品も古くは芝居、浄瑠璃、浮世絵から近年だと小説、映画、テレビドラマといったほぼ全ジャンルに及び、その数も枚挙にいとまがない。
なかでもマンガの武蔵は、井上雄彦の『バガボンド』をはじめ、多くの作品で主人公あるいは印象的なサブキャラクターをつとめている。その性格はどれも、己のなかに様々な葛藤をかかえながらも剣の道に向き合う、愚直だが表裏のない“まっすぐ”な男という描かれ方をおおむねしているようだ。
そんな武蔵も晩年は、肥後(熊本)・細川家の客分となって悠々自適の余生を無事に送ったそうだが、かつての大剣豪の最期としては不謹慎ながら最期はいささか平和すぎやしないかという印象を受ける。
“宮本武蔵よ、あなたの人生はそれでよかったのか?”――そんな問いかけをそのままマンガに持ちこんだのが『魔界転生』という作品だ。
伝奇時代劇作家・山田風太郎の原作をマンガ化したもので、最近でもとみ新蔵やせがわまさきがそれぞれの解釈にもとづく『魔界転生』を執筆しているが、ここで紹介したいのは不世出のバイオレンスアクション漫画家・石川賢による1987年版の『魔界転生』。
江戸時代初期の大規模なキリシタン一揆「島原の乱」で死んだはずの天草四郎が「忍法・魔界転生」によってよみがえった。四郎は、志なかばで死んだ剣豪たちを転生させて、この世に大魔王の支配する「魔界」を生み出そうと目論む。
天草四郎に対するは隻眼の剣士・柳生十兵衛! ……というストーリーの本作は、「剣豪もし戦わば」を伝奇小説に落としこんだ山田風太郎の大傑作に、石川賢のトンデモ解釈(←褒めてます)をこれでもかと注入した、まさに“スーパー剣豪大戦”。
宮本武蔵も槍の名手・宝蔵院胤舜や居合の田宮坊太郎、剣豪・荒木又右衛門らと同じ「魔界衆」として十兵衛の前に立ちはだかる。
後悔だらけの人生から解き放たれた武蔵だけに転生っぷりもはっちゃけ気味で、その容貌もよりひどい方向にランクアップ(文庫版の表紙にご注目!)。
人間だった頃からさらに冴えわたる剣技で十兵衛を追いつめるが、その活躍ぶりはマンガで楽しんでいただいたほうがいいだろう。というか、必読と強くオススメしておきたい!
……あー、ホントは'81年版の角川映画のすばらしさとか2003年版のKADOKAWA映画のアレっぷりとか、本コラムの30倍ぐらい語りたいことがあるんだが。
本日はここまで!!
<文・富士見大>
編集プロダクション・Studio E★O(スタジオ・イオ)代表。『THE NEXT GENERATION パトレイバー』劇場用パンフレット、『月刊ヒーローズ』(ヒーローズ)ほかに参加する。