『ニンフ』
今日マチ子 太田出版 \1,200+税
(2015年4月9日発売)
妊娠中の母親と健やかに暮らしていた少女ユキは、都市を襲った大震災により家族と離れ離れになってしまう。崩壊した街のなかで孤児の集団とともに暮らすようになるが、持ち前の美しさを買われ富豪のお屋敷へとひきとられることになる。
主人とその母親、再婚した妻、2人の息子とひとりの娘、それぞれがいびつさを抱える関係のなかで、マリアという名を与えられたユキのお腹はふくらみはじめていく――。
『みつあみの神様』からつづく震災のモチーフ、震災以後の想像力を問う『ニンフ』が視線を向けるのは、女性たちの生である。
「女なの?/こどもなの?」というセリフが示唆するように、ここには子どもを身ごもった女性や、子どもを身ごもれない女性や、子どもを産めなかった女性や、子どもになれなかった女性たちが登場し、そして震災以後の世界でそれぞれが、女性と子どもをめぐる問いに向きあっていく。
ラストが秀逸だろう。
震災以後の世界がどうあるべきか、そこでどう生きるべきか、その解をひとつに断定することはしない。
しかし、こどもをめぐりひきおこったとある事件を通じ――「世の中を照らす(中略)赤ちゃんはみんな そのために生まれてくるのよ」
――彼女たちはそこから、各人が選び出した別々の未来を照らしはじめることになる。
<文・高瀬司>
批評ZINE「アニメルカ」「マンガルカ」主宰。ほかアニメ・マンガ論を「ユリイカ」などに寄稿。インタビュー企画では「Drawing with Wacom」などを担当。
Twitter:@ill_critique
「アニメルカ」