『逆流主婦ワイフ』第1巻
イシデ電 KADOKAWA/エンターブレイン \680+税
(2015年5月25日発売)
エプロン姿で戦闘ポーズをとる女性の表紙と「主婦であることは、戦いである……!!」という帯コピーだけ見て、なんか過激なサザエさん的ホームコメディ!?と思ったら、いい意味で裏切られる。
とにかく第1話「ミートチョッパー」から、ブラック極まりない!
おしゃれでやさしくほがらかな、お料理好きの絵に描いたような「素敵な奥さん」のハナシ……と思いきや、なんか違うゾという違和感は、読み進めるうちに、やがて戦慄の事実へとたどりつく――。
そんな、グロテスクで後味の悪~いエピソードから、奇妙ながらもホッコリあたたかな余韻を残すエピソードまで、全12話。
テイストは様々なれど、いずれも「平凡でもいい、家事をテキパキこなし、いつも笑顔で夫を支え、愛し愛される奥さん」になりたいのに、思いは空まわりして、おかしなことになって、どんどん逆流に呑みこまれてゆく女性たちの姿が描かれてゆく。
これみよがしな心情描写は皆無。タッチもあくまで軽妙かつサラリとした、日常スケッチ風。なのに、誌面のはしばしから、彼女たちの水面下の焦りや苦悩が透けて滲み、やがてドロリとあふれ出す。
その上手すぎる語り口とどんでん返しの鮮やかさは、ドラマ『世にも奇妙な物語』にも通じる感じで、著者の代表作『私という猫』と同様、トラウマ必至!?
健康、清潔、時短、節約、美観、収納……。そんな強迫観念にかられ、スキルアップして自己満足度が上がれば上がるほど、他人目にはどんどんヤバイ感じになってゆく彼女たちは、哀れで滑稽でときに恐ろしくもあるが、不器用で人間味にあふれ、どこか愛おしくもある。
もしドラマ化するなら、松居一代&船越英一郎主演で希望。
各話、家事ダンドリの極意がいろいろ登場するのも、家事マニア的に楽しい。
料理マンガは今や珍しくもないが、収納&ダンドリに徹した家事マンガは意外とないので、イシデ電さんにはぜひ、その路線をつきつめていただきたいです。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69