『新世界ブラッドストリート』第1巻
尾上龍太郎 白夜書房 \951+税
1903(明治36)年の今日、浪速区にオープンした遊園地「新世界ルナパーク」の北側に通天閣が完成した。
東京タワーのような電波塔ではなく、エッフェル党を模した展望塔。当時はロープウェイによってルナパークと通天閣はつながっていた。
新世界ルナパークは1925(大正14)年に閉園。1943(昭和18)年には通天閣が火災により損傷したことをきっかけに、建材を軍事利用に回され、そのまま解体されてしまう。
現在の通天閣は、1956(昭和31)年に営業を開始した2代目なのだ。
ルナパークなきあと、新世界は繁華街として隆盛を極めたが、大手私鉄のターミナル駅に恵まれなかったことから70年代以降、急速にさびれていく。時代に取り残された新世界は昭和のまま時計がストップ。日雇い労働者が集う「あいりん地区」や、ちょんの間が軒を連ねる「飛田新地」が近いこともあり、独特の雰囲気が漂い始める。
そんな新世界を舞台にした作品が、『モッちゃん』でおなじみ尾上龍太郎のデビュー作『新世界ブラッドストリート』だ。
バブルがはじけた直後の1991(平成3)年に「パチンカーワールド」(白夜書房)でスタートした本作は、パチプロの山田康博(通称・ヤス)と日雇い労働者の浜野省一(通称・浜)という2人の若者を主人公にした泥臭い物語。
一般社会からハミ出してしまった連中にも優しい、ぬるま湯のような新世界でパチンコに興じる2人が「ええ街だけど、ずっとおるところやない」と胸に秘めつつも、パチ屋で出会ったさまざまな老若男女と交流を深め、勝っては飲み、負けては飲みを繰りかえしていく。
表紙の中央に通天閣がドーンと描かれているように、作中でもその存在感は絶大。
浜が通天閣の展望台に上って街を見下ろしながら、感慨にふけるシーンもある(ちなみに浜のモデルは尾上が大ファンの浜田省吾)。
貧乏な若いギャンブラーが泣き笑いするモラトリアムな日々をベースに、関西人ならではの快テンポなギャグで笑わせてくれるが、根底に流れるのは王道の人情劇。
パチンコを知らない読者にも刺さるエピソードの数々が凝縮されている。
あの時代の新世界がかもしていた、よどんだ空気をそのままパッケージした、大阪アウトロー青春譚の怪作だ。
<文・奈良崎コロスケ>
マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。「ぱちんこオリ術 コミック&DVDスペシャル」(ガイドワークス)にて、尾上龍太郎先生が僕を主人公にした『風のコロスケ』というマンガをシリーズ連載しています。ぜひご一読を。