『ケダマメ』第3巻
玉井雪雄 小学館 ¥552+税
(2015年7月30日発売)
単行本の表紙だけを見れば、間違いなく本作は時代劇だ。実際、舞台となるのは鎌倉時代。
ただ、それだけの物語じゃないことは、連載はもちろん、単行本で本作を読んでいる読者ももう知っている。玉井雪雄『ケダマメ』は、壮大なSFストーリーなのだ。
ロードバイクを扱った『かもめ☆チャンス』やみずからの自転車漬けの日々を綴ったエッセイ作品『じこまん』で、最近では自転車ものの印象が強い玉井だが、本作は同じ玉井の作品でも人類をめぐる一大SF叙情詩『オメガトライブ』シリーズを思い起こさせる。
『オメガトライブ』シリーズで描かれていたのは人口が急増した世界だが、本作で描かれるのは人口が急減している世界だ。
物語は鎌倉時代を舞台に、虚仮丸(ケダマメ)という異形の男が、まゆという少女を守るために闘うという展開から幕を開ける。
そのなかで散りばめられていく、「明日(アケシダ)の国」「オリジン株」「遺伝子コード」、そして「G・H(ゲノム・ハッカー)」といった単語……。
核心に触れずとも、察しのよい読者のかたには、物語の構造が見えてくるかもしれないが、異形の者たちとカタカナの入り混じるサイバーなネオ時代劇としてはもちろん、ドラマティックなアクション時代劇としても楽しめる作品だ。
筆力というべきか圧力というべきか、著者の作画の力が読者を魅了する。
そして最新第3巻では、物語の真の構造が明らかとなる。そこで読者はまた、大いに驚かされるはずだ。
その展開の仕方と、新たなる舞台は、虚を突くばかり!
それぞれの時代のドラマとして、そして時代を超越した物語として、楽しませても驚かせもしてくれる本作。いや、マンガならではの作品だろう。
マンガの持つ底力と体力というものを感じさせてくれる一作でもある。
ここまでのマンガは、そうそうない。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。