『満ちても欠けても』第2巻
水谷フーカ 講談社 \734
(2014年5月13日発売)
ダメADを描いた第8話「蒲田大輔の場合」、職人的実況者の矜恃と仕事への愛情が交錯する第11話「三木貴信の場合」……など、ラジオ局で働く人々にスポットを当てた、オムニバス連作の本作。
最終巻である本巻では、ある初心者リスナーの日常を描いた第7話「小森有希の場合」のように、リスナーを含めた「ラジオの世界」そのものを描いている。
著者のラジオ文化への愛情が、読者にもにじんで見えてくるかのようだ。
ラジオ番組・ミッドナイトムーンの最終回を描いた第12話「ミッドナイトムーンの場合」は、そんなラジオ文化のエッセンスがぎゅっと詰まったエピソード。
アナウンサーの天羽が、最後に「楽しかった」と流す涙は、ラジオリスナーなら一度は体験したことがある感覚だろう。
クライマックスで臨時ディレクターになったADが、初めてキューを振ったのがこの番組であることを「一生の自慢にします」と語るシーンがあるが、じつはリスナーも、最終回を聞いていたことを誇らしい思い出にしていたりするのが、ラジオというメディアなのだ。
筆者だって今でも覚えているよ、東京FM「ミリオンナイツ」のジングルと最終回。
<文・小林聖>
主にマンガについての記事などを手がけるフリーライター。マンガ情報サイト・ネルヤ主催。年間だいたい1000冊くらいマンガを買ってます。
個人サイト「nelja」