日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは『性なる死想』
『早見純カルト傑作選 性なる死想』
早見純 久保書店 ¥1,185+税
(2015年9月1日発売)
変態・ロリコン趣味&猟奇犯罪のオンパレードな残虐かつ救いのないストーリーを、私小説さながらの文学的な独白調×端正な少女マンガタッチで描き、ワン&オンリーな圧倒的世界を紡ぎ出してきた早見純。
カルト&エロマンガファンの間ではすでに熱狂的支持をえている彼の作品集が、このたび刊行された。
これは著者自身が「性と死」をテーマに自選したもので、既発の作品集に収録された80年代の作品が中心だが、本作のための描き下ろし作品一編も収録された、初心者はもちろん、往年のファンも必見の一冊にしあがっている。
にしても……。よりによって、未成年者を狙った猟奇犯罪が世間を騒がせている、このタイミングでのリリースとは。
あまりに凶悪かつ無慈悲な描写の数々に、一児の母としてはコレを世に推薦してよいものかどうかためらってしまうが、モラルや善悪はさておき、ここに描かれている欲望や衝動がすさまじい純度を放っていることは確かなわけで。なかでも『閉ざされた扉』で描かれる「異形の愛」には、戦慄すると同時に、他者不在の盲目的な「愛」のゆきつく先は「性と死」しかないのだなーと、妙に納得したり。
著者と思しき男を主人公にした「純くんシリーズ」の諧謔あふれるユーモア(笑えないけど……)に至っては、芸術とはかくあるべきと目からウロコ。
「心の闇&病み」が社会問題としてとりざたされる時代だからこそ、そこにふたをせず、現実と虚構のボーダーをみすえながらそれを直視し、飼いならす術が必要なわけで。多くの人々の嫌悪をうながうながすであろう本書だが、ある種の人々には救いとなるかもしれない。
本書の帯にコメントを寄せている、古屋兎丸 会田誠、中原昌也、山崎春美、大森靖子……といった面々にピンときた人は、一読の価値ありですゾ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69