日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは『遠い食卓』
『遠い食卓』
イシダナオキ 講談社 ¥660+税
(2015年7月23日発売)
ジャンル・ページ数は無制限、年に4回の募集と発表が行われる講談社「月刊アフタヌーン」主催の漫画新人賞「アフタヌーン四季賞」において、2011年春の四季賞を獲得した作者による、“食”をテーマにした9つのエピソードを収録した短編集。
とは言っても、多くの食マンガにあるような素材に関する知識や薀蓄を深めるといったテーマは存在しない。むしろそこに登場するのはカップラーメンやコーヒー、餃子といった身近な食べ物ばかり。
つまるところこれらは、様々な立ち位置からその食べ物に臨む人々のジタバタ、ドタバタを描く悲喜劇のトリガーの役割を果たしているのだ。
一皿目(=第1話)の「カップラーメン フルクサス」では、料理研究家を母に持つ教師が、生徒たちが「ヤバい」と噂する新発売のカップラーメンを追い求める。
立場上、気にしないそぶりを見せながらも、どこに行っても売り切れているため、カップラーメンはいつしかどうしても食べたいものへと変化していく。ラテン語のフルクサス=「変化する」という言葉そのままに。
そしてその“変化”が丹念に描かれているからこそ、よく似た思い出を持つ読者の共感を呼ぶのではないだろうか?
食べ物をテーマにしつつも、その真髄は人生の様々な局面で普遍的に起こりうる出来事を描く。
そのなかにあるユーモアやペーソス(哀愁)をぜひとも感じとっていただきたい。
<文・富士見大>
編集・ライター。『THE NEXT GENERATION パトレイバー』劇場用パンフレット、『月刊ヒーローズ』(ヒーローズ)ほかに参加する。ただいま好評発売中の『バケモノの子 オフィシャルガイド』、「『仮面ライダードライブ』フォトブック~Drivin’Album」もやってます。