『波よ聞いてくれ』第1巻
沙村広明 講談社 \590+税
(2015年5月22日発売)
「今度こそ間違いなく、人が死なない漫画」。あとがきにそんなコンセプトが明かされていて噴いてしまった。
『無限の住人』の成功もあって、沙村広明氏のパブリックイメージは「とにかく人がよく死ぬ漫画家」だろう。手足や首がポンポン飛び、男も美少女も暴力の前ではみな平等に死んだり欠損したりする。
エログロも華麗な画力によって“読まされて”しまった……みたいな声を『ブラッドハーレーの馬車』の感想でも見かけた。
違うんだ。いや沙村氏がエログロ好きなのもたぶん事実だが、もっといろんな引き出しがある作家だ。
『ハルシオン・ランチ』ではSFシュールギャグ、『おひっこし』は大学生のラブコメ日常もの。時代劇も現代ドラマも、惨劇もギャグも一流の天才なのだ。
和洋中どのメニューも絶品のお店が、ラーメンがウマいからラーメン屋というのはおかしい。
スープカレー屋の女性店員・鼓田(こだ)ミナレは飲み屋で知り合ったおじさんに、なけなしの貯金をだまし取った元カレへの恨み節を洗いざらいぶっちゃける。
その相手はじつは地方ラジオ局のディレクターで、録音されていた愚痴は公共の電波に流され、おもしろいからとスカウトの声がかかる一方で、店長にクビを宣告されてしまった……。
ヒロインのミナレは残念美人。アタマの回転も早いしカレー屋の仕事もテキパキとこなす。しゃべりも超うまくて、これ以上は失恋トークを流されてたまるかと生放送のスタジオに乗りこんでアドリブでフォローを語り、録音と合わせて26分間、一度も噛まなかったほどの素人ばなれっぷりだ。
が、これが職場ではプラスにならない。スープカレー激戦区での計算を聞かせる楽屋トークも、「パンとカレーの夢空間」をめざす店長には叱られるだけ。しゃべりでお客の子どもを喜ばせても、遅刻を埋め合わせるどころかマイナス査定だ。しゃべりの才能が、店員としての才能を邪魔している。