日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『やがて君になる』
『やがて君になる』第1巻
仲谷鳰(なかたに・にお) KADOKAWA ¥570+税
(2015年10月27日発売)
マンガにおいて、恋というのは最大不変の題材だ。
だれかを強く想う時の、うわずったような甘い気持ちや、想う人に告白された時の、地に足の着かないようなふわふわしたうれしさ……。
それを絵とセリフで表現し、追体験させること。特に少女マンガでは、それが大きな役割のひとつだろう。
たとえそれが男女間だけでなく、女性と女性の間に存在する恋愛感情だとしても、だ。
だがこのマンガは、恋、つまりだれかを好きになることに対して、まったく違う視点でスポットを当てている。
――「好き」という気持ちが、わからない。
このマンガの主人公、小糸侑(こいと・ゆう)は、そんな悩みを抱えた高校1年生だ。
しかし、そんな侑に「私、君のこと好きになりそう」と告げた人物がいる。
七海燈子(ななみ・とうこ)、生徒会の先輩だ。
侑はたまたま、燈子が男子に告白されるところを目撃してしまった。
だが燈子は、だれに告白されてもつきあうつもりがない、と言う。
そんな燈子に共感を覚える侑。
この人も「好き」がわからないのかも。実感したことがないのかも。
しかし彼女は、こともあろうに侑に「好きになりそう」と言った――こうして女子2人の、少々ややこしい関係は始まる。
燈子には明らかに、侑に対しての恋心がある。その表情としぐさで、侑にもわかる。
一方、侑は冷静だ。自分の心の動きが読めている。
生徒会の件で侑は燈子に協力することになるのだが、その理由についても理性で分析してしまっている。
2人の温度は明らかに違う。でも、侑が燈子に心を動かしていることは事実で――。
だから、この話の先がひどく気にかかるのだ。
はたして侑は恋をするのか、もしくは、まったく恋とは違う場所で燈子の近くにいようと思うのか、それとも……?
物語は淡々と進んでいるようでいて、しかし微妙な心理も決して漏らさない。
絵柄も同様だ。シンプルですっきりした線ながら、驚くほど詳細に感情が表現されている。
だからページを繰るごとに、何かがこちらにしっかりとしみこんでくる。
何だかわからないけど、やけに先が気になる――奇妙に後を引く、クセになる作品だと言えるだろう。
その不思議な感覚、ぜひご一読のほど。
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」