『あの娘にキスと白百合を』第2巻
缶乃 KADOKAWA \542+税
(2014年12月22日発売)
新進気鋭の漫画家・缶乃がおくる、多感な時期の少女たちが体験するさまざまな恋とキスを描いたオムニバスストーリー第2巻。
舞台となるのは、中高大一貫女子学園「清蘭学園」。
おもな登場人物は6名だが、そのつどスポットライトが当たる人物が変わるオムニバス形式をとっているため、少女たちの生きる世界が多方向から明確になり、よりリアルに感じられる。
さらに、1話ごとに1ページの「あのキス小劇場」が付いていて、その話の主役の裏側で、ほかのキャラたちに芽生えた小さな恋を描いている。『あのキス』の世界がいっそう肉厚になる好企画だ。
2巻のエピソードでほぼ主役を務める形になるのが、高等部1年の日下部千春と、同じく3年の星野真夜。
千春には同じ1年の親友・上原愛がいて、千春も愛も3年の真夜を大切に想っている。しかし星を愛する真夜は、清蘭を出て理学部で天文学を勉強したいという。とはいえ、その外部の大学は真夜にはレベルが高くて……。
清蘭学園という同じ場所を共有するからこそ生まれた想いは、その大切さが色あせないとしても、形は変わっていく。
真夜は卒業を迎えるが、卒業は別れだけでなく、新しい出会いも生む。
千春とふとしたきっかけで知り合う中等部3年の秋月伊澄は、千春の真夜への想いを知り、それによって自分の気持ちのありかを知ることになり、また新たな物語が始まる――。
自分も女子校出身で、こういう淡い百合的恋愛はとても身近なものだった。
そこにいたらそれが当然というほどに、女子同士で誰かを想い合い、また悩みを語り合って毎日が過ぎていった。だからとっても懐かしいし、しみじみする。女の子同士のキスもハグも、女子校ではさりげなくすぐそばにあるものだったりするし。
缶乃の描く女の子たちの表情はとても豊かで、マンガ表現にも、とても長けている。ほんの一瞬の表情で、たった1シーンで、少女たちが恋に落ちる姿を鮮やかに描き出す。
恋というのは、誰かを大切に想うこと。それは性別の問題じゃないのだ。
そんな当たり前の気持ちに改めて気づかせてくれる、すべての女子と、女子の心を知りたい男子におすすめしたい1冊。
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。