『福島鉄平短編集 アマリリス』
福島鉄平 集英社 \600+税
(2014年12月19日発売)
かつて「週刊少年ジャンプ」に、『サムライうさぎ』というマンガが連載されていた。
全8巻。短命ではないが、心残りがないほど長期でもなかった。
しかし、若き剣士が妻に迎えた少女の笑顔を守るため侍社会のしがらみと戦う物語は、チャンバラの裏で少年マンガの枠をほぐしてしまうほどに繊細な心情を描いており、「ジャンプ」読者に「ここで終わる作家ではないな」と予感を刻みつけていった。
そして今、6年の時を経て、青年誌へ場を移した作者の短編集が刊行されたのだ。
表題作「アマリリス」は、借金のカタに女装少年キャバクラへ売られた11歳の男の子ジャンが、街で出会った少年ポールと友情を育み、やがて切ない関係の爆発を迎えるリリカルな物語。
純粋な男友達へのあこがれと、大人の男の性の対象となって、タバコの匂いがしみついていく己の「きたない」に引き裂かれる心理描写は、一度でも自己嫌悪に苛まれたことのある人間なら琴線に響く、残酷だが優しい音色を帯びている。
また、ほかの収録作も、センチメンタルと刺しこむような切なさをともなう作品ぞろい。
元貴族のプライドを捨てきれず追い込まれていく没落令嬢が、幽霊少女と危うい親交を深める「ルチア・オンゾーネ、待つ」。
線の細いお坊ちゃまがマッチョな同級生に正体を隠し、女装姿を見せてどきまぎさせる悪戯にハマる大正私小説風の「私と小百合」。
全体として、「性」や「生」が心にもたらす「ヒダ」をなぞる作品が主になっている。
表面的に紹介すれば「少年マンガ作家が意外な方向に」と言われるかもしれないが、前置きしたように、福島作品の繊細さは、すでに「ジャンプ」本誌時代にあらわれていた。
むしろこれは、納得の開花なのである。
なお今回、短編集は2冊同時に発売されている。
もう1冊の『福島鉄平短編集 スイミング』は、少年誌掲載作をまとめたもので、男子×女子の作品が中心。
「ジャンプ」本誌に載った「月・水・金はスイミング」の描き下ろし後日談が19ページも収録されているので、『アマリリス』とあわせてファンは必読だ。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7