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『アンゴルモア 元寇合戦記』たかぎ七彦インタビュー 血と肉塊が飛ぶ合戦シーン! 戦う流人は鎌倉時代の傭兵だっ!!

2016/03/17


人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。

今回お話をうかがったのは、たかぎ七彦先生!

絶賛公開中のインタビュー第1弾にて、鎌倉時代の「元寇」という題材を選んだわけ、影響を受けた横山光輝『三国志』や雲南省への旅行での体験などを語っていただいた、『アンゴルモア 元寇合戦記』の作者・たかぎ七彦先生。

インタビュー第2弾となる今回は、主人公・朽井迅三郎の誕生秘話や、迫力あふれる画面の創造、そして気になる今後の展開についてお聞きしました!!

著者:たかぎ七彦

「小学館新人コミック大賞」に入選したのち、「モーニング」(講談社)で『なまずランプ ~幕末都市伝説~』を連載。
2013年、「サムライエース」(KADOKAWA)で『アンゴルモア 元寇合戦記』の連載を開始。歴史ファン以外からも高い支持を得る。

現在、KADOKAWA運営のWEBサイト「コミックウォーカー」にて、引き続き『アンゴルモア』を連載中。

主人公の造形は「現代の傭兵」から!

――単行本の巻末にも書かれていましたが、主人公の朽井迅三郎は架空の人物であるものの、近い名前の人物が実際にいたそうですね。

たかぎ そうです。対馬で戦った人々のなかに「口井藤三」という名前が残っていて。彼がどういう人物なのかは記録に残ってはいないんですけど、そこから膨らませていった感じです。

――その口井藤三も、朽井と同様に流人だったということですが。

たかぎ 流人という設定はおもしろいな、と思いまして。最初は主人公の名前も、そのまま口井藤三にしようとしていたんですが、連載前に当時の担当さんから「華がない!」と言われて(笑)。それで今の名前に変えました。

――どのようにキャラクターを作り上げたのでしょうか?

たかぎ 現代で傭兵をやっている方の本は、けっこうチェックしました。とくに傭兵本人の体験記なんかは、繰り返し読みましたね。彼らが戦闘中にどのようなことを感じたり、考えたりするのか。土地に縁のない者が戦うという点では、流人の朽井は傭兵のようなものですからね。

現代の傭兵から着想の一部を得たという、流人・朽井迅三郎。

現代の傭兵から着想の一部を得たという、流人・朽井迅三郎。

――そのなかで主人公のバックボーンとして、鎌倉での政争(二月騒動)を絡めています。

たかぎ 一方的に敵がやって来て、それで正義の味方が戦ってくれる……というような単純な構造だと、ちょっと安っぽくなってしまうと思ったんです。どちらにも腹黒い部分があったほうがおもしろい。それには二月騒動は、題材としていいなと思ったんですね。

――第1話のネームを持って、いろいろな編集部を回ったとのお話がありましたが、その時点では二月騒動までストーリーに絡めることは想定していたんですか?

たかぎ 設定としては考えていたので、第1話の段階でセリフに入れているんです。まあ伏線を回収できる見込みは、その時点ではなかったんですけど(笑)。序盤からできるだけ種を撒いておいて、あとで使おう……と。各編集部を回っているときには、1巻に収録している範囲内くらいまでは考えていました。「うまくいけば長く連載できるかな?」「続いたら、その時に回収していけばいいか」とは思ってましたね。

――流人のほうが、キャラとしては動かしやすいですか?

たかぎ そうですね。北条時宗のような実在の人物だと、史料もそろっていますし、人物像がある程度決まってますから。

元海賊という巨漢の流人・鬼剛丸や、積極的に戦場にも足を運ぶ戦うヒロイン・輝日をはじめ、個性豊かなキャラクターたちがそろう。

元海賊という巨漢の流人・鬼剛丸や、積極的に戦場にも足を運ぶ戦うヒロイン・輝日をはじめ、個性豊かなキャラクターたちがそろう。

――80年代にNHKの大河ドラマがブームになった際、歴史上の人物を主人公にしたマンガが数多く出たんですけど、そのときに手塚治虫先生が「ああいうのはいやだね、ぼくはね(笑)。あれだったら武田信玄の部下にいた武将の、さらに下にいた下っぱあたりが、どういうふうに犬死していったかというようなことを、ぼくは描きたいね。その連中から見た武田信玄の話をね」[注1]ということをおっしゃっています。

たかぎ ああ、なるほど。『火の鳥』の「太陽編」に出てくる犬上宿禰なんか、まさにそうですよね。「乱世編」では源義経が出てきますけど、木こりの弁太から見た義経像ですし。そういう感覚はわかります。実在しない朽井迅三郎や鬼剛丸、傭兵のスナイパーみたいな連中や、実在の人物でも、宗助国のようにマイナーな人なら、自由度が高くて動かしやすいです。あと、実際にキャラクターとして動かしてみると、愛着も湧きます。

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――源義経といえば、作中には義経が残したとされる「義経流」が出てきますが。

たかぎ 実戦から遠のいた江戸時代の型としての流派ではなく、中世の野性味のある、太刀も含んだ兵法として「義経流」を考えています。いちおう義経の戦い方は参考にはしているんですよ。たとえば源頼朝のように武家を率いて正規の軍として戦うのではなく、義経の場合は弁慶のような法師がいたり、元山賊なんかもいて、かなり寄せ集めの集団なんですね。そういうのをうまく使って、ゲリラ的に新しい戦術を思いついて戦う、といった感じです。

――そういえば義経には、大陸に落ち延びて、チンギス・カンになったという伝説もありましたね。

たかぎ ありますねぇ。その伝説をそのまま使う気はないですけど、ただ、向こうに渡った人がいて……ということは伏線として忍ばせていますので。

――では、それがどうなるかは今後のお楽しみ、ですね。

史実と創作の境界線

――対馬の宗氏って、たしかにマイナーですが、歴史マニアのあいだでは江戸時代の「柳川一件」という、国書偽造スキャンダルが思い浮かびます。日本と朝鮮の二国間で、国交回復のために巧妙に立ちまわったわけですが、なにかそういった交渉上手というか外交上手な「宗氏」のイメージは、キャラクター造形に反映させようと思いました?

たかぎ 宗助国のところに通詞(通訳)がいる描写を入れて、外交役も勤めていた面は強調しました。ただ、相手が未知の蒙古軍ということで、言葉が通じないほうがおもしろいだろうと。敵とまっすぐに会話できないほうが、得体の知れない感じが出せますからね。

――この時代の資料集めは、かなりたいへんではないかと思いますが。

たかぎ 過去に博物館で開催された企画展の図録を、ネットオークションで手に入れたりしてしてます。とくに大陸のほうの軍隊はたいへんですね。蒙古、高麗、女真族とそれぞれの違いを出すのには苦労しています。

――各軍の髪型や軍装を見るだけでも楽しいですね。

たかぎ 実際には、同じような軍装だったとは思うんですけど、マンガ的には違いを出さないといけない。そこはちょっと悩みどころでした。史料がないだけに、創作のしがいがあって楽しいですけどね。

さまざまな人種によって構成される蒙古軍は、髪型などだけでなく、軍装も区別して描かれている。

さまざまな人種によって構成される蒙古軍は、髪型などだけでなく、軍装も区別して描かれている。

――ディテールにこだわる部分と、これはマンガ作品なのだからと割り切る部分。そのへんの線引きは、どこにあるんでしょう?

たかぎ 暦に関するモヤモヤは4巻のあとがきにも描きましたが、人名にしても、源義経を例にすると九郎という通称と、義経という実名(じちな)を並列にして、「源九郎義経」みたいな呼び方はしなかった。フィクションではよく見かけますけどね。それに実名で「義経殿」みたいな呼び方もしていないんです。

――忌み名[注2]ですね。

たかぎ だけど、同じ人物に対して何通りもの呼び名が出てくると、読者はわけがわからなくなってしまう。このあたりは、史実どおりならいいというものでもないです。それから言葉づかい。できるだけラフにはしてあります。

――そのへんのサジ加減は、どうお考えですか?

たかぎ 僕自身が歴史好きなですけど、あんまり歴史考証に深入りしすぎると、説明だけのマンガになっちゃうので、そこは常に気をつけています。ネームの時には書いてあった説明文も、原稿にする時にはできるだけ減らして、絵で状況がわかるように、と心がけているつもりです。説明……って、描いている人間の自己満足の場合が多いんですよ(笑)。

――担当編集さんとしては、そのあたりは?

担当 僕は歴史に対する知識が薄いので、「あの史実を入れましょう!」とかは言えないんです(笑)。ただ、僕が理解できなければ読者もわからないだろうな、とは思っています。

たかぎ 想定する読者としては理想ですよね(笑)。普通の人が読んでわかるように、事実関係よりも話を優先しています。

――とはいえ、描いている時に自分の中から声がささやいてきませんか? 「ここ、実際とは違うんじゃない?」とか。

たかぎ あります、あります(笑)。歴史研究者からのツッコミを想定すると、どうしても理論武装していっちゃうんですよ。

――歴史マンガは物語が進むにつれて、マニアックになりがちですもんね。

たかぎ いっぱい資料を調べているのに「ここが違う」とかツッコまれると、悔しくて、どんどん理論のほうへいってしまいがちだと思うんです。ただ、そうなると置いてきぼりになる読者も出てきますよね。「マニア」は意識してもいいと思うんですけど、やっぱり「研究者」を意識しちゃダメですね!(笑) 教科書を作っているんじゃなくて、エンターテンメントをやっているので。


  • [注1]「ああいうのはいやだね……」 知恵の森文庫『漫画の奥義 -作り手からの漫画論-』より。聞き手は漫画評論家/映画評論家の石子順。
  • [注2]忌み名 中国文化の影響を受けた東アジア地域に共通する文化。諱とも。「実名敬避俗」といって、実名を呼ぶのは失礼であるとし、日常的には呼び名としての名前である「通称」「仮名(けみょう)」を用い、実名は公式文書に用いる程度であった。また、官職や役職に就いたものは、通称に変わって官途名を呼び名として用いた。現在でも「○○(姓)部長」や「○○(姓)課長」といったように、「姓+役職」を組み合わせた呼び名が一般的であるのは、この文化の名残である。なお、源義経の場合は、幼名は牛若丸、元服して仮名は九郎、実名は義経、後白河法皇から判官の官職に任じられた。

単行本情報

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