人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、たかぎ七彦先生!
文永11年、大陸を支配していたモンゴル帝国による日本侵攻・文永の役での対馬を描く、歴史アクション『アンゴルモア 元寇合戦記』。史実をベースにした本作は、その緻密な考証と豪快なアクションシーンの組み合わせが口コミで評判を呼び、『このマンガがすごい!2016』に見事ランクイン!
鎌倉時代、そして「元寇」という、今までフィクションであまり取り扱われなかった事件を選んだ理由、史実をベースにした作品だからこそこだわる細部のリアリティ、影響を受けた作品や実体験などを、作者のたかぎ七彦先生にうかがいました!
読者を楽しませるための、超マニアックなこだわりがここに!
元寇のイメージを覆したかった
――『アンゴルモア 元寇合戦記』は、13世紀、鎌倉時代の元寇(モンゴル帝国による日本侵攻)が題材です。歴史マンガというと戦国時代や幕末を題材にした作品が多いのですが、なぜ元寇を選んだのでしょうか?
たかぎ 今おっしゃったように、「あまりフィクションの題材になったことがない」ことが理由としては大きいです。以前、「モーニング」(講談社)で『なまずランプ ~幕末都市伝説~』という作品で幕末を描いたことがあるんですが、その人気がまあ……いまひとつだったんですね(笑)。それだったら、だれもやったことがない時代を扱えば、読者の興味をひけるかな、と思ったんです。であれば、元寇だろう、と。
――歴史はかなりお好きなんですね?
たかぎ そうですね、もともと大学時代は史学科でした。
――日本史を専攻されてたんですか?
たかぎ いや、メソポタミア史です。シュメール文明とか。
――全然違うじゃないですか!
たかぎ まあ、歴史好きって、基本的にはどの時代でも好きですから(笑)。
――あまりフィクション化されていないマイナーな時代は、ほかにもあると思います。なぜ元寇に興味を?
たかぎ 高校生の時から絵巻に興味があったんです。モンゴル兵が日本の武士に向かって焙烙玉[注1]を投げ込んでいるような絵……教科書にも載っている『蒙古襲来絵詞』ですね。
――世間では、一般的な知識としての元寇は「暴風でモンゴル軍が退いた」くらいではないかと思います。
たかぎ だと思います。ただ元寇は文永の役(1274年)と弘安の役(1281年)と2回あって、『アンゴルモア』で描いているのは最初の文永の役です。元軍が嵐で撤退した……という、いわゆる「神風」のイメージは、2度目の弘安の役のほうですね。
――「神風」の印象が強すぎて、文永の役がどのような戦いなのか、ほとんどの人が知らないでしょうね。
たかぎ そこをみんなに知らせたい、という気持ちはありました。
――読者が抱いている元寇のイメージを覆したい、と?
たかぎ そういう気持ちはあります。
――そもそも、どういった経緯で連載が始まったのでしょうか?
たかぎ 1話目のネームができていたので、それで何件かの編集部に持ってまわっていたんです。その時、たまたまKADOKAWAさんが「サムライエース」という歴史作品に強いマンガ雑誌を出していたので、ではそこに持ち込んでみようか、と思ったんです。
――では、「サムライエース」での連載用に立ち上げた企画というわけではないんですね?
担当 こちらから「元寇で」とお願いしたわけではないです。たかぎ先生のほうで描きたいものがあって、それがおもしろいので「では連載しましょう」となりました。
――「サムライエース」の休刊後は、KADOKAWAさんが運営するWEBサイト「コミックウォーカー」に掲載の場所を移しました。
担当 もともと「サムライエース」は、ある程度、上の年齢層に向けた雑誌でしたので、当然『アンゴルモア』も読者層が高めで、連載の引き継ぎ先を探すにしても、KADOKAWAで出している少年誌だと、ちょっとテイストが違うように感じていたんです。
――主人公も、少年マンガに比べると年齢が上ですしね。
担当 ちょうどその時、「コミックウォーカー」ができました。それが渡りに船というか、デジタルだったら各マンガ雑誌にあるようなターゲット層を意識せず、今までどおりに続けられるんじゃないかと思ったんです。
――移籍後、読者層に変化はありました?
たかぎ 若いファンが増えたと聞いてます。
担当 「サムライエース」には手を出していなかった、若い層が見てくれるようになったと感じています。「コミックウォーカー」に『おしえて!ギャル子ちゃん』などを読みに来た読者が、『アンゴルモア』にも目を通してくれるようになったのかな、と思ってますが(笑)。
- [注1]焙烙玉 焙烙火矢とも。陶器などに火薬を入れ、導火線に火をつけてから敵に向かって放つ、現在の手榴弾のような武器。『蒙古襲来絵詞』には「てつはう」と書かれている。