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『アンゴルモア 元寇合戦記』たかぎ七彦インタビュー 蒙古襲来! 異彩を放つ鎌倉歴史アクションの源流は「横山三国志」から!?

2016/03/07


細部にこだわるリアリティと横山光輝の影響

――作品の舞台となるのは対馬です。実際に取材に行かれたんですか?

たかぎ 連載が始まってからは、対馬在住の方に写真を送っていただいたりしているのですが、実際には行ってないんです。それで島の全景を把握するために、粘土で島を作ってみました。

――序盤で主人公の朽井が、往来で土を盛って対馬の地図を作ります。あのエピソードは作品舞台がわかりやすく、主人公の性格も出てて、いいエピソードだと思ったんですけど、ひょっとしてその粘土模型が元になっているんですか?

朽井が対馬の人々とともに島の図を土でつくる印象的なシーン。

朽井が対馬の人々とともに島の図を土でつくる印象的なシーン。

たかぎ そうです。最初は自分が地形を把握するために作ったんです。

――実際に作ってみて、対馬にどういった印象を抱きました?

たかぎ 思っていたより大きいな、と思いました。そうとうでかいぞ、と。あとは「山」ですね。島というと、中央に山があって周囲は平地……と思いがちなんですけど、対馬の場合はどこまでも山並みが続いています。すごい山岳地帯なんだな、と思いました。それはかなり意外でしたね。

たかぎ先生による粘土模型。これは対馬の全景ではなく、金田城周辺を再現したもの。

たかぎ先生による粘土模型。これは対馬の全景ではなく、金田城周辺を再現したもの。

――それで「横矢掛け」(3巻第12話)の戦闘シーンが生まれたんですね。

たかぎ そうです。まあ、だいたいの戦術は、横山光輝先生の『三国志』[注2]の影響が強いんじゃないかと思ってます。

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――そうなんですか?

たかぎ 張飛がひとりで立ちはだかって敵を食い止めているうちに、味方を引き上げさせたシーンがあったんですけど……。

――長坂坡の戦いですね。

たかぎ それです。小学生から中学生にかけてのころ、異様に「横山三国志」にハマった時期があったので、一番脳の記憶に残っていると思うんですよ。だから断片的にそういった絵が浮かんでくるんじゃないかと思います。

――『アンゴルモア』はコアな歴史ファンからもかなり評判がいいんですけど、それはマニアが納得するような戦い方をしているからかもしれませんね。あとは歴史考証の部分。これすごく驚いたんですけど、助国が右側から騎乗してます(1巻第4話)。日本で右から騎乗するようになったのは明治以降ですよね。

たかぎ よくご存じですね。そういった資料を読んだことがあって、それで右から乗る絵にしました。

――そういったことがすごくさりげなく描かれています。この馬、対州馬[注3]ですよね?

たかぎ そうです。

――実物はご覧になりました?

たかぎ いやぁ、ほとんど数が残っていませんから。さすがに資料で見ただけです。

――日本の在来種[注4]は体高が低くて、現在のサラブレッドに比べるとかなり小さいし、脚も短いです。それで迫力あるように描くのは、どういった点に気をつけていますか?

たかぎ 実際よりは少し大きめに描いてます。まあ、この時代だと人間の体格が現代よりも小さいので、それでちょうどいいバランスになるんですよ。あと、迫力を出す工夫についてですけど、馬は毛深く描くようにしてます。毛深くすると「獣っぽさ」が出るんです。当時は気性の荒い馬のほうがいいとされていたし、去勢もしなかったので、そういう獣っぽさを出したかったんです。

たかぎ先生が「毛深く、獣っぽく」描いていると語る、合戦シーンに登場する日本在来の馬。

たかぎ先生が「毛深く、獣っぽく」描いていると語る、合戦シーンに登場する日本在来の馬。

担当 横浜にある「馬の博物館」に、『アンゴルモア』で馬が出てくるシーンの複製原画を展示してもらったんですよ。

たかぎ パネルを作ってもらったり(3巻著者近影参照)、つきっきりで解説をしてもらったり、かなりよくしてもらいました。

――つまり「馬の専門家も認めた馬描写!」なんですね。


  • [注2]横山光輝先生の『三国志』 吉川英治の小説『三国志』をベースとして、潮出版社の「希望の友」「少年ワールド」「コミックトム」の3誌に、約15年にもわたって連載された、漫画家・横山光輝の代表作のひとつ。
  • [注3]対州馬 読みは「たいしゅううま」。長崎県対馬市周辺で飼育されてきた日本在来の馬。山道の多い対馬だけあって、坂に強いことで知られる。
  • [注4]日本の在来種 木曽馬(本州)や道産子(北海道)、そして対州馬(対馬)などが日本在来の馬。日本在来種の体高は130センチメートル程度で、サラブレッド(160~170センチメートル)に比べるとひとまわり小さい。具体的には、動物園の乗馬コーナーにいるポニーを想定してもらえればいい(なお、ポニーとは、体高147センチメートル以下の馬の総称であり、馬の種類のことではない)。

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