『いぬやしき』第4巻
奥浩哉 講談社 \590+税
(2015年7月23日発売)
友人が、人間ではない何者かになってしまった……。
風貌も人柄もそのままに、謎の飛来物によって機械の身体となったうえに、強大な力を手に入れた少年・獅子神皓(ししがみ・ひろ)は、その力でまるでゲームを楽しむかのように、人の金、そして命までをも奪いはじめる。
そんな幼なじみに対し、こらえきれない思いを抱いていた安堂直行。
彼は、獅子神と同様に人智を超えた力をえながら、それを人々のために行使する人物がいると気づく。いた直行は、ついにその人物・犬屋敷壱郎(いぬやしき・いちろう)と対面する。
年齢よりもはるかに老けて見える、冴えないサラリーマン・犬屋敷壱郎(いぬやしき・いちろう)、58歳。2児の父でもある。
直行は犬屋敷に、「あいつを…… 皓を…… 止めて下さい……」と涙ながらに訴える。
奥浩哉『いぬやしき』が、最新第4巻でついに大きく動き出した。
これまで描かれてきたのは、手にした力によって、世間でいうところの善に傾いた犬屋敷と、「悪」に傾いた獅子神のそれぞれ姿だ。その2人が、直行という人物を中心に、徐々につながりを持ち始めた。
本作を読んでいるだれもが感じていることかもしれないが、単純にこの2人を善悪にわけることはできない。
犬屋敷は、たしかに善行を積み重ねている。しかしそれは、もはや家庭にすら見出すことのできなくなった己の存在理由を世の中に求めているようにも見える。
そして獅子紙は悪行を繰り返しながらも、母親のために涙を流し、好きなマンガに感動を覚えたりもする。
機械の身体に置き換えられ、人ならざるものとなったことで、善悪そのどちらをも内包する“人間らしさ”が浮き彫りになっていく。
そうしたキャラクターの“人間味”は、マンガでは省略されがちな細かな動きのディティールを、粛々と描きだすことで、より際立つ。
ドラマのカタルシスを、わかりやすい善悪に走らない。何かが動き出した世界を、まるで記録映像のように事細かに映しとっていく。その視点が本作にスリルを与えて、深みや凄味を生み出してる。
『いぬやしき』とは、そんなマンガなんじゃないだろうか。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。