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『アンゴルモア 元寇合戦記』たかぎ七彦インタビュー 血と肉塊が飛ぶ合戦シーン! 戦う流人は鎌倉時代の傭兵だっ!!

2016/03/17


血と肉塊が飛ぶ迫力の合戦シーンに注目!

――今まで描いてきたなかで、たかぎ先生ご本人が気に入っているシーンは、どこでしょうか?

たかぎ 合戦のシーンを描くときは興が乗るというか、無心に、テンションを上げて描いてます。とくに見開きとか、まるまる1ページを使った大ゴマで描いているところは、「ここを見てほしい!」という気持ちで描いていますね。

――銃が出てきたシーンは、かなり印象的でした。

たかぎ あれはなにかの図録に14世紀の銃が載っているのをみつけ、同じものをモンゴル軍がヨーロッパ遠征に持っていったという記述があったので、「これはおもしろいな」と思っていたんです。このあとも出す予定ではあるんですけど、まず対馬側が有利になったところでのお披露目というか。一回、出しておこうか、と。

衝撃的な登場を果たした、モンゴルの「銃」。

衝撃的な登場を果たした、モンゴルの「銃」。

――弥次郎の死はインパクトありましたよ。

たかぎ 最初から出ていたキャラなので、「もうちょっと生かしておいてほしかった」という意見はちらほらといただきました。でも合戦には当然、死がともないますし、そこをちゃんと描いておきたいと思いまして。

――銃に匹敵するような秘密兵器は、対馬側にはないんでしょうか?

たかぎ 4巻ラストで防人の末裔が出てきます。史料上はないんですけど、古代の防人の戦い方がポイントになるんじゃないかと思います。

――反対に、描いていてキツかったのは?

たかぎ 見開きで海に船をいっぱい描いたところは大変でした。背景なんかも、最初の頃は全部自分で描いていたんです。

物語序盤で輝日が語った、対馬へと押し寄せるモンゴル軍のイメージ図。

物語序盤で輝日が語った、対馬へと押し寄せるモンゴル軍のイメージ図。

――え! 全部アナログですか?

たかぎ ペン入れまでは手描きです。それでトーンの処理とか背景はデジタル。ちょっと気晴らしに喫茶店に行ったときなんかに、メモ帳に木の絵とかを描いておくんです。それを帰ってきてからデジタルで取りこんで実際に使ったりするんで、便利ですよ。無心で(背景を)描いている時って、楽しいですし。

たかぎ先生のTwitterより。この時は喫茶店でシダ植物を描いていたようだ。

――序盤の「サムライエース」での連載は2カ月に1回のペースでしたが、今はキツイのでは?

たかぎ たしかに「サムライエース」の時は、時間的に余裕があったことが大きいですね。「コミックウォーカー」に移ってからは、アシスタントさんにお願いすることが多くなりましたけど、自分で描けるときは今でも描いています。

担当 最近、だんだん時間なくなってきてますけど(笑)。

たかぎ いや、はい……そうですね(笑)。

対馬の向こうに見える“世界”

――前回のインタビューで横山光輝『三国志』がお好きという話がありましたが、小さいころに影響を受けた作品は?

たかぎ やっぱり三国志関係がいちばんですね。「横山三国志」はもちろん、吉川英治さんの小説も読みましたし、NHKの『人形劇 三国志』[注3]も好きでした。

――川本喜八郎さんの人形劇!

たかぎ そうです。あと、光栄(現・コーエーテクモゲームス)の『三國志』もやってました。最近はあんまりやってないですけど。やっぱり仕事の合間に中国統一は難しいですから(笑)。

――根っからの歴史好きですね。マンガを描き始めたのはいつぐらいからですか?

たかぎ 高校生の時です。本格的にそっちに舵を切らなければならないな、と思ったのは大学4年生のときですね。

――それはどうして?

たかぎ まわりが就職活動を始めたから、いよいよ本格的に投稿しないとな、と思ったんです。でも、そう思いながらも、遺跡の発掘調査アルバイトとかやってましたけどね。

――ハケで土をよけたり?

たかぎ そうそう、土器とかを掘るアルバイト(笑)。

――かなりガチで史学科の学生をやっていらしたんですね。その道を進むか、マンガの道へ行くかで、悩みませんでしたか?

たかぎ うーん、ちょっとは悩みました。でも、がっつりと研究するよりは、そういった史料を使って遊ぶほうが楽しいかな、と思って。大学4年の時に投稿した作品が、運良く「小学館新人コミック大賞」で入選をいただいて、それからプロの漫画家さんのアシスタントとかに入るようになったんです。

――初連載は「モーニング」での『なまずランプ ~幕末都市伝説~』で、やっぱり日本を舞台とした歴史モノでした。今後、日本以外の国で、描いてみたい時代はあります?

たかぎ 大学時代に専攻していたのはメソポタミアですけど……まあマイナーですからね(笑)。二月騒動のエピソードを描いた時のように、『アンゴルモア』と同時代の中国や高麗などはやってみたいです。

――では最後に、今後の展開について先生からひと言お願いできれば。

たかぎ 日本史のなかで世界と接点があるタイミングって、とても少ないんです。元寇以前だと、白村江の戦い[注4]になってしまいます。対馬という島を通じて、その向こうにある世界とのつながりを感じていただければと思います。また、そういうふうに「日本史と同時進行中の世界」を描いていきたいと思っています。

――なるほど、作中に出てくる日本地図も、中国側から見た姿として描かれていますよね。今後の展開も期待しています。ありがとうございました!

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  • [注3]『人形劇 三国志』 1982年から1984年までNHKで放送された人形劇。アニメーション作家としても知られる川本喜八郎が担当した人形は、今なお高い人気を誇る。
  • [注4]白村江の戦い 663年、中大兄皇子が政治を主導していた時期に朝鮮半島の白村江で行われた海戦。阿倍比羅夫が率いる日本・百済の連合軍と新羅・唐の連合軍がぶつかり、日本側が大敗、百済は歴史から姿を消した。インタビューで話題に出た手塚治虫『火の鳥』の「太陽編」にも描かれている。

取材・構成:加山竜司

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