日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『手と手を合わせて』
『手と手を合わせて』第1巻
茶みらい 芳文社 ¥590+税
(2015年11月12日発売)
舞台になっているのは「幸せの国」の、小さな宿泊施設「クランベリーホテル」。
ヒロインの桜宮さちは、このホテルの従業員として働いている。
はて、「幸せの国」っていったいなんぞ?
描かれているのは、ごく一般的なホテルの業務。
女の子たちはかわいらしく、ほんわかしたムード。しかし、サービスへの苦情はくるし、ハードな仕事はある。決してゆるくはない。遊んでだらだらするのは許されない。仕事は時間どおりきっかり行い、ときには深夜書類をまとめないといけない。
出てくるキャラクターたちの前では、劇的な「幸せ」はほとんど起こらない。むしろ「いつもどおり」な日々が続く。
この作品のすごいところは、「いつもどおり」の視点の切り口をどんどん変えていく点だ。
たとえばお店のアイスクリームはコーンに入れて持って食べる。当たり前のことだ。
しかしお嬢様の青門雪葉は感激する。
「アイスを手で持てるようにしちゃうなんて便利で楽しい発想だよね
ホテルで働く者として こういう気遣いも学んでいけたらいいなぁ」
思いやり、喜び、幸せ。「いつもどおり」のなかには、ちゃんとそれらはつまっている。
ただ、幸せや喜びがそばにあることに気づけなければ、いつまでたっても、幸せにはなれない。
桜宮さちは「不幸せの国で義務教育は終えている」と述べている。
この「不幸せの国」がどこのことなのかは、はっきりとは描かれていない。
「幸せの国」は、なんでもなかんでも思いが叶う場所ではない。
であれば、「不幸せの国」は、身近な幸せに気づこうとしない価値観が一般化している場所だろうか。
「幸せの国」で不幸せしか見えない人もいれば、「不幸せの国」で幸せを見つけられる人もいるのだろう。
すべては、本人がどうとらえるかだ。
女の子たちがふっと自分の幸せに気づいて、笑顔になる。
その笑顔を見て、こちらも幸せになれる。
一度開いた「幸せ」の視点の切り口は、連鎖していく。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」