日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ソマリと森の神様』
『ソマリと森の神様』第1巻
暮石ヤコ 徳間書店 ¥580+税
(2015年11月20日発売)
寿命が近づきつつあるゴーレムと、彼に拾われた人間の少女・ソマリ。
人間はこの世界では絶滅の危機に瀕しており、世界は人外たちが支配している。
“終わり”に近い2つの存在がともに旅をしながら、どのように生きていくのか。それを見守る物語が『ソマリと森の神様』だ。
ソマリは森のなかにひとりでいたところをゴーレムに見つけられ、目を合わせた瞬間に「おとうさん」と呼んでいる。
人間が愛玩動物や食料として扱われる世界で、人間の子どもというもっとも弱い存在に「おとうさん」と呼ばれたゴーレム。
番人をしていた森を離れソマリの親を探す旅に出るほどの父性の目覚めがあったと想像できるが、いかんせん表情が読みとれるビジュアルではない。
けれど、膝に怪我をしたソマリを気づかったり、ソマリに危険が迫っていると判断すると静かな迫力で相手を牽制したりと、その父親っぷりがあたたかく、かりそめの父と娘の旅路を見守っていたくなる。
ストーリーを読み進めてから1巻のカバーイラストを見ると、ゴーレムがほほえんでいるように見えて不思議とうれしい。
見守っていたくなるのは、ゴーレムとソマリの2人だけではない。
ネコもどき、小鬼、魔女、妖精と様々な異形異類が登場するが、その存在一つひとつに対して彼らは何をして日々生きているかが描かれている。どのように生計を立てていて、どんな性格をしているのか。深い森にはどんな植物が生えていて、どれが食べられるか、それをどう食べるか。
人間が生きるには過酷な世界だが、彼らを人間を迫害するだけの存在として描くのではなく、人外には人外の生活がありそこで暮らしているようすを作画・設定の両面から掘りさげた異形・異類日常系として読んでも楽しめる。
父と娘、危険でどこに行きつくのかわからない旅路だが、ソマリの天真爛漫さのおかげか作品全体が重たいトーンで読者にのしかかってくることはない。
2人の旅路を見守りつつ、植物や生物の図鑑をながめる感覚でページをめくれるマンガだ。
<文・川俣綾加>
フリーライター、福岡出身。
デザイン・マンガ・アニメ関連の紙媒体・ウェブや、「マンガナイト」などで活動中。
著書に『ビジュアルとキャッチで魅せるPOPの見本帳』、写真集『小雪の怒ってなどいない!!』(岡田モフリシャス名義)。
ブログ「自分です。」