日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『織田シナモン信長』
『織田シナモン信長』第1巻
目黒川うな 徳間書店 ¥580+税
(2015年12月19日発売)
1582(天正10)年、本能寺で壮絶な死をとげた織田信長。
志のためとはいえ非道のかぎりを尽くしてきただけに「来世は犬畜生まで落ちるか」と冗談めかしてつぶやいたところ、なんと本当に柴犬に転生! 現代日本の女子高生にペットショップで買われ、シナモンと名づけられてかわいがられることに。しかも、あろうことか信長としての記憶はバッチリと残ったまんま。
驚いたことに武田信玄やら上杉謙信やら伊達政宗といった名立たる武将たちも、みな近所のワンコに転生していることが発覚。
もちろん飼い主は知るよしもなく、信玄はラッキー、謙信はジュリアン、政宗はブーちゃんという現世の名がつけられている。
かくしてキュートなワンコと化した戦国武将たちが、散歩中に顔を突きあわせるたびに、つばぜり合いを始めるのだが、転生したといっても本体は犬。ジャーキーを差し出されればパクつくし、お腹をさすられればうっとりしちゃうし、意味なく庭に穴を掘って遊んだりもする。
もはや威厳もクソもあったもんじゃない。
おもしろいのは、しっかりとした史実に基づいて武将犬たちが会話をすること。
特にシナモン信長がガセネタを否定するくだりが最高である。
たとえば「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス」という有名な句に対して「ワシ、そんなこと言ってねーである」。延暦寺の焼きうちについてブーちゃん政宗に突っ込まれると、「実はワシ……寺、焼いてないのである」といった調子だ。
このように盛りに盛られた信長エピソードが終盤のミステリー展開への伏線になっていく点にも注目。
お尻の穴を丸出しでふりふり歩く愛らしいシナモン信長にほのぼのしつつ、なんとなく戦国武将たちの関係や史実も頭に入ってくる優れもの(カバーをとると、わかりやすい登場人物年表が)。
歴史ファンはもちろん、受験生にもオススメしたい新感覚のお犬様コメディだ。
<文・奈良崎コロスケ>
マンガと映画とギャンブルの3本立てライター。中野ブロードウェイの真横に在住し「まんだらけ」と「明屋書店」と「タコシェ」を書庫がわりにしている。著書に『ミミスマ―隣の会話に耳をすませば』(宝島社)。『ローカル路線バス乗り継ぎの旅 THE MOVIE』(2月13日公開)のパンフレットに参加しております。