『神のみぞ知るセカイ』第26巻
若木民喜 小学館 \480
(2014年6月18日発売)
『ときめきメモリアル』に始まり『YU−NO』に終わる。
ゲーマーじゃない人にはまるで伝わらないだろうが、若木君(筆者の大学の後輩である)には、ド直球で受け止めてもらえるはず。
「現実なんてクソゲーだ!」
あらゆるギャルゲーを極めてネットで崇拝される「落とし神」こと桂木桂馬は、悪魔の挑発に乗って人間界に潜む「駆け魂」を狩る=現実の少女達を恋に落として心のスキマを埋める、「攻略」作業に乗り出す。
各ヒロインを攻略する1周目は個別ルート。ヒロイン全員が出そろってから、誰のなかに「女神」が潜んでいるかを探す2周目。そして過去に飛ばされて正しい未来へのルートをめざす「ユピテル編」は、フラグを回収した後に現れるトゥルーエンドを探すビジュアルノベル。
途中でエグい展開があるのも、周回プレイするゲームでは避けられないことで、丸くて光って過去と現在とをつなぐ渡航機は『YU-NO』の宝玉セーブ(多次元を行ききできるアイテム)ですよね。
10人以上ものヒロインを取っ替え引っ替えしてキスしても、桂馬の自我はみじんも揺るがない。
最終的には六股(+α)かけていて、客観的にはヒドイ男だが、本人は誰にも恋してないので罪の意識もないし、無垢。つまり最強最後の“ヒロイン”は、心の純潔を守り通してる桂馬本人!
生身の肉体を持つ女性たちの「現実」が、恋愛をゲームのフレームワークから出そうとしない桂馬を攻略する「もうひとつのギャルゲー」が浮かび上がるのだ。
最終26巻、桂馬は最後の最後まで、自分が「攻略」されたことを認めようとしない。生まれて初めての自分からの告白も「この物語を終わらせるためには、関係した女の子たちを物語から開放してやらねばならない!!」「ラブコメも終了!!」と、ゲームシステム的に説明しようと意地を張る。
なにこの史上最強のツンデレ!!
ギャルゲーのロジックで攻略できない相手とめぐり逢った桂馬の、とても難しい「恋愛」というギャルゲーを祝福したいのです。
<文・多根清史>
『オトナアニメ』(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)、『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』『超ファミコン』(ともに太田出版)など。