複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。
今回は、「『東京ラブストーリー』復活から、90年代初頭のトレンド」について。
『文春文庫 東京ラブストーリー』上巻
柴門ふみ 文藝春秋 ¥790+税
(2010年4月9日発売)
「カンチ、セックスしよ!」
あの『東京ラブストーリー』(柴門ふみ)が帰ってきたッ!!
1月25日発売の「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)に、続編の読切「東京ラブストーリー ~After 25 years~」が掲載されたのだ。
『東京ラブストーリー』は1988年に同誌で連載を開始。1991年にフジテレビ系列でドラマ化されると、カンチこと永尾完治(織田裕二)と赤名リカ(鈴木保奈美)のオシャレな恋模様に日本中が熱中した。平均視聴率は22.9パーセント、最高視聴率は32.3パーセントを記録し、「トレンディドラマ」の代表的な作品と評されるようになったのである。
お兄さん、トレンディだねぇ。
今回の『~After 25 years~』は、最終回から25年後、50歳になったカンチとリカが再会するストーリーだ。偶然にも再会したかつての恋人同士は、いったいどんな言葉を交わすのか? あの日あの時あの場所で君にまた出会ってしまった2人は、まさか焼けぼっくいに火がついて……なんて、まるで『黄昏流星群』(弘兼憲史)みたいな展開がッ!?
気になる内容は、ぜひとも本誌で読んでもらいたい。
ともあれ1991年は、日本中がバブル経済に沸き踊った狂奔の時代である。
しかし、社会人としてバブルの恩恵を享受した世代はすでに45歳以上。バブルも遠くなりにけり。様々な“伝説”が残る一方で、四半世紀も昔のことなのだから、当時の世相がわからない人も多い。
この年はSMAPがCDデビューし……って、SMAPネタはもういい?
といったわけで今回は、1991(平成3)年の出来事をマンガで振り返っていこう。
『ゴルゴ13』第80巻
さいとう・たかを リイド社 ¥476+税
(2006年3月30日発売)
1991年に世界を揺るがした大事件といえば、湾岸戦争とソビエト崩壊を忘れてはならない。どちらも歴史の教科書に載るほどの歴史的な出来事だ。
『ゴルゴ13』の「Kデー・カウントダウン」(文庫版80巻)は、この2つの歴史的出来事を結びつけた傑作である。
ブッシュ(父)大統領が開戦に踏みきるまでの「空白の19時間」に何が起きたのか? ロシアと中東、異なる2つの地域を股にかけて、デューク東郷が世界を動かすスナイプを敢行する。
ソ連の8月革命を題材にした「覚醒 クーデターの謎」(文庫版82巻)もあわせて読めば、崩壊直前のソビエト連邦の雰囲気を感じられるだろう。
『ジョジョの奇妙な冒険』第36巻
荒木飛呂彦 集英社 ¥390+税
(1994年2月発売)
この年のヒット商品といえば、カルピスウォーターだ。
缶入りのカルピスが初めてリリースされ、日本中が「ゥンまああ~いっ」と大感動。「ヒット商品番付」(SMBCコンサルティング)、「ヒット商品ベスト3」(日経トレンディネット)、「DIMEトレンド大賞」(DIME)と、この年のトレンドの三冠王に輝いたのである。
そしてマンガ界きってのカルピスウォーター好きといえば、虹村億泰(『ジョジョの奇妙な冒険』荒木飛呂彦)だろう。
“重ちー”こと矢安宮重清のスタンド「ハーヴェスト」が初登場(コミックス36巻)したときには、驚いてカルピスウォーターを学ランにこぼしたし、そのあとで重ちーから「ところで億泰さん、のどかわかない?」と聞かれたときには「おごってくれるのか? そうだな、カルピスウォーターがいいな」と返答するほどのカルピス好きだ。
『ジョジョ』第4部は1992から1995年にかけて執筆されたが、作中の時代設定は1999年。荒木先生は、この商品が一過性のブームではなく、1999年でも売れ続けていると予見していたのである。さすがッ!
『新・優駿たちの蹄跡 ~熱誠編~』
やまさき拓味 KADOKAWA ¥660+税
(2012年11月24日発売)
また、この年の年度代表馬(JRA)に選出されたのは、無敗のまま日本ダービーを制覇したトウカイテイオーだ。
二冠達成後は度重なる故障に悩まされたものの、1年もの長期休養を余儀なくされたあとに有馬記念を制すなど、じつにドラマティックな競走馬生活を送った。
そんなテイオーを描いたマンガが、やまさき拓味『新・優駿たちの蹄跡 ~熱誠編~』である。
この時期には「オヤジギャル」という言葉が流行語(1990年)になったように、従来は「オヤジの趣味」と思われていたカラオケ、居酒屋、競馬場などに続々と若い女性が進出していった。競馬場にも若い女性が大挙して押し寄せて、若いイケメン騎手を追っかけたり、人気馬はぬいぐるみも発売されるようになったりしたのだ。
つまり1991年は、女性の社会進出が広く認知されるようになってきた時代でもあった。
だからこそドラマ『東京ラブストーリー』の赤名リカのような、アメリカ帰りで、性に奔放で、都会的なヒロインがウケたと推測できる。
しかし、あらためて原作を読むと、その印象は覆る。
11歳までジンバブエで育ったリカは、大都会・東京での生活に窮屈さを感じながらも、「あたしも近代化しよう」と、様々な不条理に耐え忍ぶ。
「あたしが大暴れして会社やめたら、残されたカンチが困るだけだもん」と、カンチのためにセクハラにも耐える姿は、どちらかといえば古いタイプの女性像だ。
一方のカンチにしても、愛媛から上京してきて「東京でおいしい目にあおうと思ってた」わけであり、「リカを手なずけることは、東京を手なずけることみたいな気がして」と、都会へのコンプレックスを吐露する。
つまり原作『東京ラブストーリー』は、きらびやかな「東京」に憧れながらも、都市生活になじめず時代に振りまわされてしまった一組のカップルの悲恋という側面を持つ。
バブル景気の浮かれポンチによるイチャコラ物語ではなく、じつはあんまりトレンディじゃない、わりと普遍的な上京物語だったのですよ。
こうした原作のオリジナリティを把握しておけば、今回の「~After 25 years~」を読むと、2016年のカンチとリカの境遇にもシンパシーを抱けるはず。
ひとつの物語が終わっても、人生は続く。
“その後”にスポットを当てるのが、続編マンガの意義なのだ。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama