『ゴルゴ13 176 顔のない死神』
さいとう・たかを リイド社 \552+税
(2015年4月4日発売)
すご腕スナイパー、ゴルゴ13ことデューク東郷は、日本でもっとも有名なキャラクターのひとりであろう。とはいえ、じつはコミックスまで読んだことはないという人も意外に多いのでは?
『ゴルゴ13』は、『ビッグコミック』誌上で連載45周年を越えるロングセラー。
長寿作には“偉大なるマンネリ”などと呼ばれる作品も少ないないけれど、いやいや『ゴルゴ』はそれに当たらず。ひたすら超人的な狙撃の腕で乗り切っているだけの話だと思ったら大間違いだ。
ゴルゴが駆使する道具の一つひとつにも現代の最先端技術が見てとれ、描かれる事件も大きく変動する社会情勢を反映している。
これまでにも、現実社会で事件が起こるよりも早く原発問題やエボラ出血熱をテーマとした作品を発表しており、その先見の明には脱帽だ。
タイトル作の「顔のない死神」は、各国の諜報機関が追い求める武器商人・ガブリエルと、その側近の間に起こった内輪もめがエピソードの発端に。
側近は、カブリエルが自分を消すためにゴルゴを雇ったことを知り、CIAやMI6の面々にガブリエルの情報を話すかわりに、自分の身を守ってほしいと泣きつくのだ。舞台はインド洋に浮かぶ孤島、ゴルゴはいかにして難攻不落の軍事基地に潜入するのか、そして意外な結末は……!?
インドの自動車メーカーが開発したバイオ・エタノール車に絡む謀略を軸に、世界的な自動車産業の問題点、環境問題、食糧問題をも俎上にあげた「アジ・ダカーハの羽」も示唆に富んだ一編。
フィクションでありつつ、今の時代とシンクロするように描かれる本作こそ、今読むべき作品なのである!
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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