日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『シュトヘル』
『シュトヘル』第12巻
伊藤悠 小学館 ¥630+税
(2016年1月12日発売)
時は13世紀。モンゴルの侵攻によって失われつつある西夏国の文字をめぐり、父である大ハン(チンギス・ハン)と対立するユルールと、彼と行動をともにする女戦士・シュトヘル(死霊の意)。
そして、ユルールと同じ目を持つ少女に出会ったことをきっかけに、意識だけが過去のシュトヘルの肉体へと憑依してしまった現代日本の高校生・須藤。
彼らの冒険は、前巻までの大ハンとの死闘により、大きな転換点を迎えた。
シュトヘルは、ユルールを死んだと誤認したことから心神喪失状態になり、それをきっかけとして須藤の意識が表面化。
一方のユルールは父と同じ西夏文字を背中に刻まれ、兄・ナランと結託して修羅の道を歩み始めるという決断を下すという急展開に。
本巻では、クライマックスを終えてひと息つく……かと思いきや、離れ離れとなってしまったシュトヘルとユルールや、周囲の人々に訪れる大きな変化が目白押し。
それぞれが新たな道を歩み始める過程で、多くの重すぎる喪失も描かれていく。
思わず目を覆いたくなるような重い展開が続くなかで、唯一読者と作品世界に希望を与えてくれるのが、底抜けに明るい須藤の存在だ。これまでもそうであったが、今後も人々にポジティブさをもたらしてくれるキャラとして、ますます欠かせない存在となっていくことだろう。
須藤の口から話題が出てきたことで、しばらく作中に登場しなかった現代日本が再登場か? と、ほんのり予感させるような一幕もあったりと、今後の展開への期待値がどんどん上がっていく『シュトヘル』。
著者である伊藤悠は、現在放送中のテレビアニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のキャラクターデザイン原案を手がけている。『オルフェンズ』で伊藤を知った方にも、ぜひぜひ今から単行本をそろえて、動乱渦巻く過去へと身を投じていただきたいところである。
<文・山田幸彦>
91年生、富野由悠季と映画と暴力的な洋ゲーをこよなく愛するライター。怪獣からガンダムまで、節操なく書かせていただいております。
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