日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『阿・吽』
『阿・吽』第3巻
おかざき真里(著) 阿吽社(監)小学館 ¥648+税
(2015年12月8日発売)
問い:次のうち、正しい組み合わせを選びなさい。
A.最澄・天台宗・比叡山延暦寺/空海・真言宗・高野山金剛峯寺
B.最澄・真言宗・比叡山延暦寺/空海・天台宗・高野山金剛峯寺
C.最澄・真言宗・高野山金剛峯寺/空海・天台宗・比叡山延暦寺
D.最澄・天台宗・高野山金剛峯寺/空海・真言宗・比叡山延暦寺
なんて問題で、多くの受験生の前に立ちはだかってきた、天台宗の開祖・最澄と、真言宗の開祖・空海。
正直、別にどっちがどっちでもいいだろ! と叫んだ罰当たりな学生も多いかと思われるが(筆者もそのひとり)、日本仏教の基礎を築き、その後の歴史に計りしれない影響を与えた同時代人を描いた作品が、おかざき真理『阿・吽』だ。
清廉潔白な学者肌の最澄と、まるで獣のように経典をむさぼり読む空海。
一見、正反対な人物として描かれる2人だが、仏の道を追求することにかけては、ともに人知を超えた……凡人から見れば狂気としかおもえない……情熱を持っていた。
本作は、彼ら2人をはじめ、桓武天皇に和気清麻呂(わけのきよまろ)といった有名人が織りなす歴史ロマンであると同時に、2人の青年が、おのれの身もかえりみず、何かを求め、ひたすら愚直に突きすすむ青春の姿を描いた物語でもある。
仏教がいまだ政治勢力として、学問として、そして何より国と民を救うよりどころとして、巨大な力をもっていた時代。
最澄と空海の2人は、仏教の教えに何を求め、何を見出したのか……おかざき真理の絵の力は、それを読者の前にまざまざと現前させてくれる。
2人の天才の人の枠を超えた情熱と、それをみごとに描き出す漫画家の奔放なイマジネーションに圧倒される作品だ。
この第3巻では、2人の若き僧がついに唐へと渡る決意を固める。
大陸編が今から楽しみである。
<文・前島賢>
82年生、SF、ライトノベルを中心に活動するライター。朝日新聞にて書評欄「エンタメ for around 20」を担当中。
Twitter:@maezimas