日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『三十路飯』
『三十路飯』第1巻
伊藤静 小学館 ¥552+税
(2016年2月12日発売)
タイトルどおり、三十路の独身女性・高山日向がおいしいごはんにいやされるグルメマンガ。
と言ってるそばから、また~? という声が聞こえてきそうだが、本作のキモは食べ物ではなく、むしろ人間描写にある。
会社に3日間泊まりこんで仕事した帰り、街を歩いている時のなんともいえないぼっち感。遠距離恋愛中の彼氏のアパートを突然訪ねたら、エプロン姿の女性が出てきた時のショック……。
三十路の悲哀に満ちた日向の生活描写は、リアルすぎてせつなすぎて、人によっては目を背けたくなるかもしれない。
しかし、そんなドンづまりの彼女だからこそ、「飯によって救われる」という人生のワンシーンが、えもいわれぬ説得力をもって生々しく迫ってくるわけで。
スクリーントーンを使用せず、詳細な描線の描きこみだけで描かれた独特の絵柄がまた、いなたくもあたたかく、おでんの出汁のように心身にじんわり沁みる。
幼なじみの景ちゃんを始め、彼女を取り巻く人間模様も味わい深く、『深夜食堂』のファンにもおすすめ。ラストのエピソードがまた、なんともいい塩梅なのだが、だからこそ、やっぱり、1巻完結とはもったいない、もっと読みたい!とうならされる。
ちなみに、中野の立ち飲みおでん、神田の焼ジビエ、江古田の餃子など、作中に登場する店はすべて都内に実在。
どれもかなりの名店なので、聖地巡礼も楽しめること間違いナシです。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69