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今回紹介するのは、『アイアムアヒーロー 公式アンソロジーコミック: 8 TALES OF THE ZQN』
『アイアムアヒーロー 公式アンソロジーコミック:8 TALES OF THE ZQN』
花沢健吾(作) 水沢悦子、横槍メンゴ、石黒正数、オジロマコト、
伊藤潤二、鳥飼茜、乃木坂太郎、吉本浩二(著) 小学館 ¥552+税
(2016年4月12日発売)
『アイアムアヒーロー』の映画化を記念して、「ビッグコミックスピリッツ」誌上で展開されたアンソロジー企画が1冊にまとまった。
『花のズボラ飯』の水沢悦子から『ブラック・ジャック創作秘話』の吉本浩二まで、現役バリバリの豪華布陣がZQNの跋扈する世界観を借りて存分に遊んでいる。
あとがきによると、当初、花沢健吾はこの企画にあまり乗り気ではなかったらしい。曰く「他人の作品のアンソロジーを描くことが、プロとしてやってはいけない気がしていたから」。
だからして執筆陣には、「ゾンビというジャンルで自由に描いて欲しい」と伝えたそうだ。
この一文を読んで納得した。原作にベッタリ寄ったエピソードが少ないのだ。鳥飼茜(『おんなのいえ』)の「鬼さんこちら」に至っては、ゾンビすら出てこない。
もちろん英雄に出会う前の比呂美を主人公にすえた横槍メンゴ(『クズの本懐』)の「Ghost of a Smile」のようなサイドストーリーもあるし、公式のスピンオフ作品として続きを読んでみたくなる乃木坂太郎(『医龍』)の「アイアムノットアヒーロー」、さらには石黒正数(『それでも町は廻っている』)の「ゾンビのいるところ」、オジロマコト(『富士山さんは思春期』)の「思春期オブ ザ デッド」といったように、正統派ゾンビ作品も、しっかりとそろっている。
なかでも強烈なインパクトを与えてくれるがホラー界のレジェンド、伊藤潤二(『富江』)の「シーイズアスローウォーカー」。ゾンビはノロノロ派だという伊藤が、ZQNのような走るゾンビの存在を真正面からうけとめた怪作だ。
読みごたえがあるのは、なんといっても吉本浩二が描く巻末の「アイアムアヒーロー誕生秘話」。女子と話したのは3年間で10分以下という暗黒の高校時代から、マンガ家デビュー、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』のヒット、そして『アイアムアヒーロー』誕生前夜まで、花沢健吾の人となりを踏まえつつ振り返る、ファン必読のエピソードだ。
あまりにも多彩すぎるラインナップに、熱狂的な原作ファンは少々面食らうかもしれないが、「百戦錬磨の人気漫画家が、独自の視点でゾンビというお題を調理した」という捉え方で手にとってほしい、上質のアンソロジーである。
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てライター。公開中の映画『アイ アム ア ヒーロー』の劇場用プログラムに参加しております。原作と同じくらいおもしろいので観てね!