日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『みわくのあくま』
『みわくのあくま』
もけお リブレ出版 ¥600+税
(2016年3月10日発売)
黒髪が似合うクールな美少女・世志子と彼女に心奪われてしまった素朴な少女・純がおりなすラブコメディ。
かわいい女の子同士がイチャイチャしている様子は尊いが、本作は自分を好きでいてくれる人がそばにいることの大切さにも気づかせてくれる。
世志子は、ありとあらゆるものから愛されている。老若男女はもちろん、魚や動物、あげくのはてには宇宙人や神様までが、彼女の魅力にハートをぶち抜かれる始末。
じつは世志子、幼い頃に悪魔に取り憑かれてたことがきっかけで、異常なまでのモテ体質になってしまったのだ。
自分に向けられる好意はすべて悪魔が起こした勘違いと考える世志子に、あっさりと振られてしまう純。
自分の気持ちがどうしてもニセモノとは思えない純は、世志子に取り憑いた悪魔を祓うことに乗り出す。悪魔が去ったあとも純の気持ちが変わらなければ、それは本心から世志子を想っていることになるからだ。
自分自身が大嫌い。自分はだれからも必要とされていないのでは? それはだれもが感じたことのある身近な悩みだろう。じつは世志子も同じ悩みを抱えて生きている。
世志子がまだ幼い頃、彼女に魅了された親鳥が巣を離れてしまい、ヒナが飢えに苦しむことがあった。自分の持つ力がだれかを傷つけるものだと知って、世志子は自分自身を呪う。しだいに彼女は、悪魔の力がなければ、だれも自分を愛してくれないのではと考えるようになり、心を閉ざしていく。
“全生物に愛される少女”という突拍子もない設定の彼女だが、抱える悩みは等身大だ。読んでいるうちに、いつのまにか彼女に自分を重ねてしまうことも。
だからこそ純が世志子のために一生懸命になっているのを見るたびに、心が救われるような気持ちになる。
親戚のイタコから魔除けを借りてきたり、おばあちゃんといっしょにお守りをつくったり、世志子のために動きまわる純の姿は、「私を好きな人がいるかもしれない。ここにいてもいいのかもしれない」という希望そのものだ。
閉ざされていた世志子の心は少しずつ開いていき、第1巻収録最終話では、みずから悪魔を祓い、純の本当の気持ちを確かめたいと願うまでに至る。
単行本未収録のエピソードはpixivコミックにて閲覧可能だ。
怒涛の急展開でクライマックスは近い。ぜひ世志子が自分を好きになれる、そして純と気持ちが通じあうハッピーエンドを迎えてほしい。
かわいい女の子が苦しんでいるなんて、こんな悲しいことはない。
<文・籠生堅太>
なんでも屋。イリーガルなお仕事以外は、だいたいなんでもやります。読むと元気になれるマンガが好きです。
Twitter:@kagoiki