話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!
今回紹介するのは『この世界の片隅に』
『この世界の片隅に』著者のこうの史代先生から、コメントをいただきました!
『この世界の片隅に』上巻
こうの史代 双葉社 ¥648+税
(2008年1月12日発売)
来る11月12日、いよいよ劇場アニメ版『この世界の片隅に』が公開される。
主演に、のん(本名:能年玲奈)が起用されたことが大きな話題となり、多くのファンが封切りを今や遅しと待ちわびている。
それに先駆け、広島県呉市立美術館では「マンガとアニメで見る こうの史代『この世界の片隅に』展」が開催。全ページの原画、取材ノート、写真資料などが展示された。
また、宝島社からは公式アートブックが発売されている。
映画公開を前に気運が高まっている今、この機会にあらためて本作を読み返しておきたいところだ。
本作は昭和18年からはじまる。
主人公・浦野すずは、広島市から呉市へと嫁いでいく。戦時中を舞台にした作品だが、いわゆる戦争マンガとは異なり、戦時下の庶民の生活を中心に物語が進む。ドラマや映画では繰り返し描かれてきた“戦時中”が、実際はどのような暮らしむきだったのか、すずの目を通じて、戦時下の衣食住が丁寧に描かれる。
たとえば着物を裁断してもんぺにリメイクしたり、配給だけでは食材が足りないので野草を利用したり、あるいは炊き方の工夫(楠公飯)をしたり、防空壕をつくったり焼夷弾対策をしたりと、当時の人々にとっての日常の風景が、こうの史代独特の柔らかなタッチでほのぼのと描かれる。
何を食べ、何を着て、どのような場所に体を横たえていたのか。いわば「戦時下の日常系マンガ」とでも言おうか。
戦時下といっても、市井の人々には日々の生活がある。現代と同様、日常の些細な出来事に、人々は一喜一憂する。
そんな当たり前のことに気づかされるとともに、我々の祖先は何を喜び、何に憤り、どのように生きてきたのかを考えさせられる。
そしてもちろん、日本が本土の制空権を失った昭和19年以降になると、作中でも空襲のシーンが頻繁に描かれるようになっていく。
何しろ舞台となる呉は軍港の町であり、苛烈な空襲にさいなまれた史実がある。読者としては、やがて来る昭和20年8月6日の悲劇に思いを馳せずにはいられない。
“あの日”が本作でどのような描かれた方をするのかも注目ポイントだ。