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『風の魔転郎』 丸尾末広 【日刊マンガガイド】

2016/10/27


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『風の魔転郎』


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『新装版 風の魔転郎』
丸尾末広 KADOKAWA ¥880+税
(2016年9月26日発売)


丸尾末広の既作『風の魔転郎』が、さる9月に新装版で再刊行された。

同じく新装版が出た『笑う吸血鬼』のような、ネットリと怪奇かつ耽美な残酷芝居をマンガでくりひろげる巨匠として名高い丸尾先生だが、本作はなんとスカっと爽快なバトル系の少年マンガである。

内容は、直球な妖怪退治もの。
まず最初に妖怪が秘密裏に子どもたちを傷つけ支配しようとしている小学校の不穏な様子が描かれ、そこへ魔界からきた少年・風野魔転郎(かぜの・まてんろう)が素性を隠して転入してくる。
魔転郎は悪だくみをあばき、トルネードと化す強烈な風をあやつる能力で妖怪を撃破。
仕事を終えると、また別の学校へと転校していく……というパターンの1話完結式だ。

エピソードは単行本1冊ぶんの全4話。
子どもを水中に引きずりこむ「水亡」編、ひとの心臓を喰らって延命を図る魔女「黒衣天」編、サッカーボールで殺人シュートを撃つウサギ頭の怪人「お耳長様」編、そして人間を不眠に追いこみ凶暴化させて操る「砂男(サンドマン)」編でフィナーレとなる。

なかでも強烈な印象を残すのが、新装版の表紙イラストにも出ているウサギ男「お耳長様」だ。
サッカー好きの少年を勧誘して厳しい特訓をつけ、自分と同じウサギ怪人に肉体改造する妖怪なのだが、『巨人の星』の大リーグ養成ギプスめいた器具を装着させた男の子が歯をくいしばっているのを後ろで腕組みしながら見守る図が、そこだけみるとなんだか厳しくも温かい熱血コーチとその教え子みたいな謎のアツさに満ちておりおもしろすぎるので、ぜひごらんになっていただきたい。
泣き言をいう少年を叱咤激励する時の「ばかもの カズやラモスもこの特訓にたえて今のようになったのだぞ!!」という通俗的なセリフも秀逸。どんな妖怪だお前。

なお、本作のボリュームがつつましいのは掲載誌のほうの事情である。
1994年に徳間書店が久しぶりの少年マンガ誌として創刊した「月刊マンガボーイズ」で連載されていたのだが、これが1年ほどで休刊してしまったのだ。
あとがきによると、丸尾氏はおなじみの作風とは裏腹に、対極的な少年マンガも昔から意識していたそうで、実際に描く機会が得られたのは望むところだったようだ。

発表の場に恵まれた作品ではなかったが、あの丸尾末広先生が明朗な少年マンガを描きたいように描くとどうなるのか? というのが実際に確認できる意味で、ほかの作品にはない独特の価値を今後も示し続ける1作といえる。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

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