日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『笑う吸血鬼』
『新装版 笑う吸血鬼』 第1巻
丸尾末広 KADOKAWA ¥920+税
(2016年9月26日発売)
飛び散る血潮、こぼれる臓物、うごめく異形、暴力、情欲……。
あらゆるケガレと背徳を耽美に描きあげる、グラン・ギニョール(残酷芝居)マンガの巨匠・丸尾末広。
その既作『笑う吸血鬼』が、今年9月に新装版で発売された。
1998~99年に第1部、さらに2003年に『ハライソ』と題された第2部が「ヤングチャンピオン」誌に連載されたのが初出で、単行本も二部構成にあわせて全2巻となっている。
第1部の主要人物は、計4名。
戦後まもなく焦土と化した町なかで盗みを働き、リンチを受けて殺されるも人の血を吸う怪物としてよみがえった醜い顔の女。
数十年後にその女から血を分け与えられて眷属となり、殺人と吸血の麻薬的な快楽を学習していく少年。
幼少期のトラウマで性的なものごとへ強い嫌悪感をもちながら、不幸にも強姦の被害にあって正気と狂気のはざまへ追いやられる少女。
放火をくりかえして興奮を得ていた矢先、吸血鬼による殺人の痕跡を見つけて人の死と血に強烈な関心をそそられる少年……。
この4人の行動が平行して進み、やがて交わるまでの流れが興味深くつづられ、最初から最後まで一気に読ませてくれる。
さらに第2部では、別の吸血鬼一派が出てきて作品世界にさらなる広がりが生まれ、第1部とはまた別種類の活発なドラマが展開されていく。
また、コマごと、ページごとの構図がクールにキマっていて、まるで美術画集をめくるような味わいを楽しめるのも丸尾作品ならでは。
吸血鬼師弟が強い灯りに照らされた夜の繁華街にコントラストのきいた影を落としながら歩く光景や、夜空に大きく散る花火をバックに吸血少年が瀕死の少女へ血を与える“キスシーン”など、見開きの絵面はどれも思わず手を止めてまじまじ鑑賞したくなることうけあいの美しさだ。
読んでよし、眺めてよしの本作が、めでたく再刊されたこのタイミングを逃さずお手に取っていただきたい。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7