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『トミノの地獄』第2巻 丸尾末広 【日刊マンガガイド】

2016/06/17


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『トミノの地獄』


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『トミノの地獄』第2巻
丸尾末広 KADOKAWA/エンターブレイン ¥880+税
(2016年5月25日発売)


丸尾末広のマンガ『少女椿』実写映画化され、5月末から公開されている。2011年には舞台化もされた作品だ。
かつてアニメ映画が1992年につくられた時は、やれ一部地域で上映禁止になっただの、映像ソフトはほとんど出回ってないだのと、アンダーグラウンド丸だしだった。
それだけに、新作映画があちこちでニュースとして取りあげられている現状を見ると、なんだか隔世の感がある(それでもアングラ感プンプンですけどね)。

『トミノの地獄』は、『少女椿』同様に丸尾末広が「見世物小屋」というテーマに向きあった作品だ。
親がなく、見世物小屋に売られた双子、少女トミノと少年カタン。
見た目何の変哲もない双子ではあったが、2人は離れていても感覚を共有できるという特技を生かして、まあまあうまくやっていた。
見世物小屋の面々は社会から虐げられてきた者ばかり。なんとか助けあいながら、ちょっとだけ幸せな日々をすごすようになる。

丸尾末広は、周囲と違う姿の人間に対して、並々ならぬ愛情を抱く作家だ。
特に蛸娘のエリーゼの表現は、一度見たら忘れられなくなる。手が4本、足が4本ある少女だ。
ほとんどしゃべらない。
彼女は後に悪用されて、新興宗教の教祖に祭りあげられてしまう。
見世物であることと、畏敬の念を抱かれるのは紙一重だ。

毛むくじゃらの子ども・シンや、小人症の男性たちは、先天性の病気で見世物になっている。
しかしみんなといる時、つらそうには見えない、むしろ幸せそうだ。
案山子(かかし)という青年は、片足がない。事故にあったからだ。
生まれつき身体の形が健常者と違うわけではない。しかし、彼もまた「虐げられてきた者」だ。
エリーゼに対しても、トミノやカタンに対しても、よき理解者になっている。

一方で見世物としてのおもしろおかしい奇形をつくろうとする人間が2巻から登場する。
「箱櫃児(シャンクェル)」と呼ばれる、子どもを箱に入れて成長を止め、奇形を人工的につくっているらしい。またもっと雑に、顔を切りきざんで不気味な形相にする手法をとろうとするシーンもある。

苦しんでいる者同士が生き抜くために、助けあって見世物小屋をやっているのと、見世物小屋のために人を虐げるのはまったく別だ。

人と違うから不幸になるわけではない。
人がだれかを利用しようとする時に、地獄のような残虐な事態が生まれるのだ。



<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」

単行本情報

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