日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『いちきゅーきゅーぺけ』
『いちきゅーきゅーぺけ』 第3巻
甘詰留太 白泉社 ¥600+税
(2016年10月28日発売)
一般マンガ・エロマンガ両方を描いてきた著者、甘詰留太の自伝的作品。
出てくるキャラクターは現実と異なるものの、もとになっている人物は実際にいるそうだ。作中に出てくる作品は、すべて実在のものだ。
1994年。まだインターネットが普及していない時代。
純平は、エロマンガが大好きな青年。
某事件の影響で世間には偏見が強く、人にエロマンガが好きなことをいえなかった彼。
大学のマンガサークルに入り、マンガ好きな仲間がいること、そして、同人誌の存在を知った。
世界が一気に開けた。
サークルには、様々なタイプの人間がいる。
熱血作品を強く愛する者。漫画家のアシスタントをしている者。コミケ時期になると全力を費やす者。セガ信者のコアゲーマー。
純平はエロマンガが大好きな桜町・クリス・真綾に出会う。同志として共鳴した2人は、自分たちのなかにある熱い思いをかたちにするため、エロマンガ制作にとりかかる。
「エロ」に惹かれる興味は、世間の常識への反抗でもある。
2人が共通して好きな作家のひとり、山本直樹の『BLUE』。
こんな攻撃的で、心を刺してくる表現があるのか、とワクワクする。
鬱屈したどす黒い感情は、エロマンガの持つアンモラルなパワーとつながり、昇華していく。
「ざまみろ」。
最終巻の第3巻では、純平とクリスがついに、自分たちのマンガをオフセットで印刷し、コミケで販売する。
クリスはいう。
「純君! 私達がエロマンガに救われた気持ち 考えてみて!!
何かを描くってことは 何かを肯定するってことだわ」
「自然と表現抑えめになっちゃう 自分の中のドロドロなんて」
「それでも その胸の中のドロドロ それ吐き出さないんだったら
”何かを作る”意味なんてなくなっちゃうよ」
純平たちのなかにあるのは、他人にはとても見せられないような心の淀み。それを持っていることに、こっそり誇りを持っている。
妄想をかたちにする時、まるでテロ行為をするような、激しい高揚感にかられる。
苦しみのすえ作った、初めての2人の同人誌。
欲がギラギラたぎるコミケ会場で、妄想のグツグツを刻みこんだ自分の本が、売れる。
それは何物にもかえがたい、一度体験したら二度と抜け出せない、最高の快楽だ。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」