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『淋しいのはアンタだけじゃない』 第2巻 吉本浩二 【日刊マンガガイド】

2017/03/23


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『淋しいのはアンタだけじゃない』


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『淋しいのはアンタだけじゃない』 第2巻
吉本浩二 小学館 ¥552+税
(2017年2月28日発売)


本作は聴覚障害者の内実を丹念に取材したドキュメンタリーで、「聴覚障害というものを正しく知る、聴覚障害者の抱える困難を知る」ということを通じ、多くの示唆を与える作品である。

このテーマを取りあげるにあたり、著者と編集者はかの佐村河内守氏にインタビューを敢行。
並行して「耳」の専門家や難聴者にも熱心な取材を行っていく。
日常生活に困らない聴力の持ち主には想像しえない「聞こえる」と「聞こえない」の《境界》とはなんなのか。そこには科学的に数値化できる(意図的に操作不可能)ものもあれば、現代の科学では解明できない心因性の領域も関わっていて、《境界》をクリアにすることは難しい。
では、佐村河内守氏をめぐる論争のマトにもなった「聴覚障害者」であるか否かの線はどこで引かれるのか――。

ものごとはすべて白黒つけられるものではなく、グレーゾーンがある。
そんなことはだれでも知っているが、法律の上ではどこかで結着をつける必要がある。
だが、現状の「法の線引き」が適切かどうかを常に考え続ける人がいなくてはならない。
本作のすごさはその役割さえも担いつつ、同時に佐村河内守氏という話題になった人物を取りあげて《予想されがちな美談》に落としこむ姿勢をいっさい見せないところだ。

そもそも、著者がドキュメンタリーの主人公として登場し、自分の意見を述べながら、日本中が注目した事件に踏みこんでいくのは非常にハイリスク。
カラダを張った“渾身の仕事”とは、こういう時に使う言葉なのだろう。

取材者として「こうあってほしかった」という個人的な期待も、疑いも、迷いもすべて丸出しにする。
究極のドキュメンタリースタイルが訴えかける熱に、引っぱられてグイグイ読んでしまうが、聴覚についての克明な解説もぜひじっくりと読んでいただきたい。
一つひとつ理解しようとする姿勢こそ、この物語が私たちに投げかけるものでもあるからだ。



<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
ブログ「ド少女文庫」

単行本情報

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