日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ホームレス・サラリーマン』
『ホームレス・サラリーマン』 第3巻
今市子 芳文社 ¥620+税
(2017年2月27日発売)
自分のタバコの不始末で社員寮をほぼ全焼させたということで、辞職を決めた32歳のメガネリーマンの各務ヶ原太一(かがみがはら・たいち。通称ガミさん)。
自分と同じく火事ですべてを焼かれてしまった同僚たちへの「お詫び」として、貯金もないのに有り金すべてを酒につかって開催した宴会で泥酔。
翌朝になって隣に見知らぬ男(後藤政敏・通称ゴッキー)が寝ていた。
火事の原因は実際のところ太一ではない別の男だったのだが、社内の事情で太一はそのまま辞職することに。サラリーマン時代に喫煙ルームで親しくしていた喫煙者仲間の長森部長の口利きで、グループ会社の臨時独身寮「あけぼの荘」という築50年のボロアパートの管理人として働くことに。
太一には離婚寸前の妻と、複雑な関係の戸籍上の息子がいる。
で、この太一とその妻子、ゴッキーと長森部長との、もう何角関係なのかもわからない複雑な関係が次から次へと展開していくのがこの作品の見どころ。
物語が作中人物の都合よく展開していくのがいわゆる「ご都合主義」だとしたら、逆ご都合主義とでもいえそうな、人間関係こじれ要素の乱れ打ち。
一見無害そうな普通のメガネリーマンの太一が、じつは複雑怪奇な人間関係のなかに生きてるのが読み進めるほどにわかってくる。
天然というか、本人は見た目どおりの温和なキャラなのが、かえって不気味なくらいだ。
第2巻でようやくゴッキーとつきあうラブラブな間柄になれたものの、長森部長には「淡い恋心を抱いている」ことを告白されてしまうわ、今度は「あけぼの荘」が燃えるわ、ひっちゃかめっちゃかで展開が速いし濃い、濃すぎる。
これほんとどうなっちゃうの!? とハラハラしながら読んでいたら、なんとこの第3巻で堂々の完結。最後まで失速せず、ガミさんや寮の面々の日々をともに経験したかのようなジェットコースター感を味わえた。すごかった。
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
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