『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』
宮川さとし 新潮社 \560+税
(2014年8月9日発売)
WEBサイト「くらげバンチ」連載中から大きな反響を呼んだ実録エッセイマンガが、ついに単行本化。末期ガンの宣告を受けた母に寄り添い続けた日々から、死を受け容れられるようになっていくまでを抑制のきいた筆致で描いている。
人はだれでも死ぬ。そんなことはわかっているはずなのに、いざとなるとなかなか認められないものだと、本作は語りかけてくる。常に当たり前に身近にいてくれた人がいなくなるわけがないと、心のどこかで思ってしまうのだと。
それでも母親は日ごとに弱っていき、やがて最期の日が訪れる。しかし……それは終わりではなく始まりでもあったのだ。母の死を境に、作者の住む世界は一変した。母がこの世から消えてしまった“それからの日々”をじっくりと描いている点も、本作の白眉である。
想像以上にダメージを受けた父親を見るにつけ、わき上がるやるせなさ。淡々と事後処理をする兄への苛立ち。自分の喪失感だけでなく、周囲の人々のそれぞれに異なる想いと直面することも、また母の死と向き合うことなのだ。
それにしても全編をとおし、お茶目で愛すべきキャラクターの母親と献身的に看病につくす息子の仲睦まじさが、いやでも涙腺を緩ませる。だが、本作は本質的には感傷的な作品ではない。
そのときどきの本音を飾らず率直に述懐しているからこそ、どの場面も心に響くのだ。衝撃的に思えるタイトルも、そう。
多くの人に読んでほしい掛け値なしの名作である。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
「ド少女文庫」