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『ヘルボーイ:地獄の花嫁』 マイク・ミニョーラ(作) リチャード・コーベン/スコット・ハンプトン/ケビン・ノーラン(画) 今井亮一(訳) 【日刊マンガガイド】

2017/03/29


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『ヘルボーイ:地獄の花嫁』


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『ヘルボーイ:地獄の花嫁』
マイク・ミニョーラ(作) リチャード・コーベン/スコット・ハンプトン/ケビン・ノーラン(画)
今井亮一(訳) ヴィレッジブックス ¥3,100+税
(2017年1月30日発売)


近年のアメコミ映画のヒットによって、アメコミキャラクターといえば、DCコミックスのスーパーマンやバットマン、マーベルコミックスのスパイダーマンを筆頭に、現在ならばほかのアメコミヒーローやキャラクターの名前を思い浮かべる人も多いだろう。
そんな彼らアメコミキャラクターを紹介する際には、「●●年に誕生し……」という”歴史の長さ”が語られることが多い。たとえば、スーパーマンやバットマンなら約80年、スパイダーマンやアイアンマンでさえも約50年の歴史を持っている。
じつは、その歴史の長さは原作を読むにあたっては、大きな障害となってしまう。
長い年月で描かれたストーリーは複雑なバックボーンとなり、関係するキャラクターの数もまた膨大……となると、読み始めるハードルも上がってしまうのも当然だ。

そもそも、さきに挙げたヒーローをはじめ、多くのアメコミキャラクターは出版社がその権利を持っており、人気がなくて連載が終わってしまったり、物語の流れのなかで死亡してしまっても、きっかけがあれば復活することも続きが描かれることも珍しくなく、メジャー級の人気キャラクターともなれば出版社の存続とともにその物語は描かれ続けることになる。

しかし、すべてのアメコミキャラクターにその理屈が通用するわけではない。
一部のキャラクターの権利は,作品によっては生み出したアーティストが保有している場合もあり、権利は持っていなくても「特定のキャラクターとそのストーリーをコントロール」ということに関しては、創出したアーティストがジャッジできる場合も少なからず存在する。

1994年にアメコミアーティストであるマイク・ミニョーラが生み出し、映画化もされるほどの人気を有する「ヘルボーイ」に関しては、出版社よりも創出したアーティストであるミニョーラ自身が作品全体をコントロールしており、その結果、「ヘルボーイ」の物語はミニョーラが思い描いていたかたちで「完結」を迎えることができた。

『ヘルボーイ』の物語自体は昨年発売された単行本『ヘルボーイ:疾風怒濤』にてすでに「完結」が描かれているが、未発売であった本作『ヘルボーイ:地獄の花嫁』が邦訳されたことによって、日本でも『ヘルボーイ』の全12冊に及ぶ単行本のすべてが発売されるに至り、「完結」を迎えることになったのだ。

シリーズ開始が1994年と最近であること、作品自体もマイク・ミニョーラという作家性が強く、作品の方向性のコントロールを作家主体で行われていたということもあり、『ヘルボーイ』は、これまでなかなか実現していなかった「アメコミとして全シリーズを翻訳で読むことができる」作品としてまとまることとなった。つまりは、アメコミキャラクターながら、その誕生からラストシーンまで、すべての物語を邦訳で「読み始めるハードル」のない状態で楽しむことができるのだ。

本作はメインとして描かれてきた「ヘルボーイの出自とその戦いの運命」という大きな流れではなく、そこから離れた部分を描いた「短編集」であるため、物語的な意味あいでの重要度こそ小さい。
しかし、『ヘルボーイ』の物語を邦訳としてコンプリートするという部分では、かかせないピースであることは間違いない1冊となっている。

全6話収録された短編は、ヘルボーイとルチャリブレ(メキシコの覆面レスラー)兄弟の交流から始まり、呪われた屋敷の秘密をあばき、吸血鬼に翻弄された一族の物語、悪魔のもとに送られる花嫁の真実、そしてラストは宇宙人のアブダクションものと、シリーズ開始当初から一貫してオカルトやホラーネタを扱ってきた『ヘルボーイ』らしく、それでいてちょっとひねったストーリーを収録。

これまでシリーズを楽しんできたファンにとっては「最後の1冊」だが、その一方で「これぞ『ヘルボーイ』」といえるほどのバラエティ豊かな内容となっているので、シリーズの入門書としても最適といえる。この全話を邦訳で読むことができるというタイミングだからこそ、シリーズを最初から読むこともできるが、あえて本作から『ヘルボーイ』に触れてみてもいいだろう。

ちなみに、『ヘルボーイ』の物語はいったん完結したものの、アメリカ本国ではその後のストーリーを描く新シリーズがスタート。こちらも邦訳を楽しみにしたい。



<文・石井誠>
1971年生まれ。アニメ誌、ホビー誌、アメコミ関連本で活動するフリーライター。アメコミファン歴20年。
洋泉社『アメコミ映画完全ガイド』シリーズ、ユリイカ『マーベル特集』などで執筆。翻訳アメコミを出版するヴィレッジブックスのアメリカンコミックス情報サイトにて、翻訳アメコミやアメコミ映画のレビューコラムを2年以上にわたって執筆中。

単行本情報

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