日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ジャスティス』
『ジャスティス』 第1巻
ジム・クルーガー、アレックス・ロス(作) アレックス・ロス、ダグ・ブレイスウェイト(画) 秋友克也(訳)
ヴィレッジブックス ¥3,200+税
(2016年11月30日発売)
マーベル社のアベンジャーズよりも長い歴史を持つDC社のヒーローチーム「ジャスティス・リーグオブ・アメリカ」。神のごとき圧倒的な能力を持つ、アメコミを代表するスーパーヒーローのなかのスーパーヒーロー「スーパーマン」、生身の地球人でありながら精神力でスーパーマンと比肩するダークヒーロー「バットマン」。
2人のヒーローを中心に、正義を守る超人たちが集結する。それがジャスティス・リーグオブ・アメリカだ。
アベンジャーズと同様、ジャスティス・リーグも多くの著者たちによって時代ごとに作り変えられて来た。そのつど、新たな脅威と向きあってきたのだが、この『ジャスティス』は、ジム・クルーガーとアレックス・ロスの手によるもの。
アレックス・ロスといえば、ひとコマひとコマが芸術の域にあると絶賛され、強烈に写実的な画風で知られる現代アメコミ随一の「絵師」。
これまでも『マーベルズ』や『バットマン:キングダム・カム』など、物語面でもきわめて高く評価される作品の作画を担当してきた。この『ジャスティス』は、その彼のもうひとつの代表作なのだ。
ロスの描く画面は、写実的な画風や超絶技巧が好きな読者には、ぜひともオススメしたいものなのだが、今回もストーリーがすごい。奥行きがあるとか構成が巧みだとか、考えさせられる、というのではなく、何人ものヒーローたちの苦闘と活躍が幾筋も伸びてからみあい、分厚い帯のようになっていく。
冒頭、スーパーマンをはじめとするスーパーヒーローたちの力が及ばず、人類があえなく絶滅する、という脅威的なビジョンが描かれる。
いきなりのクライマックスに度肝を抜かれることは間違いない。
この悪夢的なビジョンは、文字どおり夢だったということがやがてわかるのだが、この最悪の結末を予期するように、ジャスティス・リーグオブ・アメリカの面々が、ひとりまたひとりとヴィランの罠にかかり意識を乗っとられたり、瀕死の状態に追いこまれる。
バットマンのアジトであるバットケイブすら暴かれ、バットマンその人もヴィランに操られることになる。ジャスティス・リーグオブ・アメリカの美の象徴であるワンダーウーマンは顔面に痛ましい爪痕を負う。
アクアマンもスーパーマンも瀕死の重傷に苦しむ。
スーパーマンをも凌ぐ超高速が自慢のフラッシュは、その能力を逆手に取られ暴走。
止まることができずに一瞬で地球を何周もしてしまい、残像で分身の術のようになってしまう。
傍目には笑えるシーンだが、肉体の限界がきたら命が危ない(死の危険があるのにどこか笑えるところは憎めない)。
完結篇となるvol.2ではヒーローたちの逆襲が描かれることになるものの、ここまで追いつめられてはたして盛り返しが可能なのか心配になる展開。
他方でヴィランたちは、突然の改心を演じて評判を回復しようとたくらむ。
重病人を治療し、砂漠に巨大なオアシスを作り出す。
普通に善行だからいいじゃんと思うかも知れないが、「我々は改心した。しかしヒーローたちはどうだ、我々が救える人々をこれまで救ってこなかったではないか」とジャスティス・リーグオブ・アメリカを批判し始める。
本人たちを肉体的、精神的に追いつめるのと同時に、社会的な評判も地に落とす。
おそるべきヴィランたちの策略に、ヒーローたちはどう立ち向かうのか。
登場するヒーローたちも多く、正直をいうとアレックス・ロスの絵はクオリティが高すぎて読むのが本当に疲れる。でもそんな疲れるくらいのガチ超大作を読みたい読者はいるはずだ。
アメコミにすさまじい作品がたくさんあるのは知っている、どんどん読ませてくれ!という読者には自信を持ってオススメする。これはすごいぞ。
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
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