日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『山と食欲と私』
『山と食欲と私』第4巻
信濃川日出雄 新潮社 ¥520+税
(2017年3月9日発売)
「山ガール」と呼ばれることを嫌う、自称「単独登山女子」である会社員・日々野鮎美(ひびの・あゆみ)が、ひたすら山に登り、なんでもないものをやたらおいしそうに食う!……という、極めてシンプルなマンガだったはずの本作。
しかし山で出会う様々な人たち、そして会社員として過ごす日常での些細な出来事の描写が4巻分も重なってくると、そこに「人はどう生きるのが幸せなの?」といったことも考えさせられる「何か」がにじみ出してきたようにも感じられる。
もちろん、かたちから入るタイプの単独登山男子や、山小屋に忘れられた手帳にしたためられたポエムなど、笑える要素も盛りだくさん。
そしていうまでもなく、山の空気感までもリアルに伝わる"登山めし"の描写はますます冴えわたる。しかしそれ以上に、鮎美と出会う登山者たちが垣間見せる人生の片鱗が、時おり油断ならない鋭さをもって描かれることにも注目したい。
気ままに車泊でひとり旅を続け、「変態アウトドア女子」と呼ばれる女性がふと漏らす「自由はときどき寂しいよ」というひと言や、「山コン」なる婚活パーティーで明らかに浮いているシングルファーザーとの出会いなどは、そんな人間模様のほんの一端。
最近流行の「おひとり様グルメマンガ」というジャンルの1作品かと思っていたら、むしろ『人間交差点』的なポジションに近づいいてるんじゃ……? という気がしないでもない。
そんな訳で、秀逸な「山」の描写と、あいかわらず飯テロ度MAXの「食欲」要素が魅力的なのはもちろんのこと、「私」の部分も深みを増してきた最新巻。今後どのように転がっていくのか楽しみでしかたがない。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。